南京大虐殺の虚？

南京大虐殺の虚？

ネットの世界というのは不思議なところです。

　私には、東中野氏－田中氏流の「トンデモ否定論」は真面目な議論であるとはとても思えないのですが、このような「トンデモ否定論」を堂々と自分のプログに発表したり、それに追随して「これこそが真実だ」と言わんばかりの紹介する方が後を断ちません。

　ここでは、そのような「トンデモ否定論」のサンプルとして、「南京大虐殺の虚を暴け」なるブログを取り上げてみることにしましょう。

　

　「前書き」部分はとばしてもいいのですが、ここからしてかなり暴走気味ですので、一応コメントしておくことにしましょう。

第二次大戦後、アメリカや支那、英国ら戦勝国が、敗戦国である日本の悪行、犯罪を弁論の余地を与えずに裁く「東京裁判」が行われた。

　筆者は、弁護団の必死の弁護活動を、何も知らないのでしょうか。「弁論の余地を与えず」どころか、弁護側は、途方もなく膨大な「弁論」を行っています。裁判官側が最終的に「弁護」を無視した、と書くのであればともかく、「弁論の余地を与えずに」というのは明らかに書き過ぎです。

　ただし「南京事件」については、圧倒的な証言群を前に弁護側は初めから「事実への反論」を諦めてしまっていたようです。弁護人の一人、瀧川政次郎氏の記述をご覧ください。

　

ここで支那より、日本軍による戦争犯罪として捏造されたのが南京事件である。

　どうして「支那」なんでしょうね。「連合国側」と書くべきでしょう。

　しかし、いきなり結論ありきの文章です。「誇張して伝えられた」と書くのであれば、まだ「見解の相違」の世界であるという気はしますが、事実がなにもないのに、というニュアンスで「捏造された」とまで断言してしまうのも、無茶な話です。

　余談ですが、こういう方々は、どうして無理して「支那」という言葉を使いたがるのでしょうか。もはや死語となっており、中国側が明らかに嫌悪している「支那」なんて表現をわざわざ使わなくても、素直に「中国」と書けばいいと思うのですけれどね。わざわざ自分の「偏向」ぶりを強調しないでも・・・。

　

1937年12月13日　南京陥落から6週間の間に、軍人から市民を含む30万人が日本軍によって殺戮された。これが世に言う南京大虐殺です。

　「東京裁判」から話を始めるのであれば、いきなり「３０万人説」などに話を飛ばしてはいけません。「東京裁判」の判決では、「１０万」もしくは「２０万」の数字なのですから。

　「現在の中国側が主張する南京大虐殺」と直すべきでしょう。

　まあ、ネットでは、「３０万人の市民が虐殺された」という表現をよく見かけますので、「軍人・市民」と正しく書いてあることは、ほめておきましょう。（当たり前の話ではありますが）

　

当時の南京は35キロ平方メートル、周囲を高さ12Mの柵で覆われた都市です。

　「南京市」と「南京特別市」と「南京城内」の区別、ちゃんとついていますか？

　ここでいう「南京」は、「南京城内」のことらしいですが、これは「虐殺」の範囲と一致しません。「虐殺」の範囲を小さく見せようとするトリック、と見られても仕方がないでしょう。

　参考までに。なおこのうち、一般には「南京市」が「虐殺の範囲」として取り扱われます。「範囲」については、私のページの「二十万都市で三十万虐殺」をご覧ください。

●「南京市」（郷区を含む）　４７４．６１k㎡　（市来「南京」Ｐ１０)

●「南京城内」　約３５k㎡　（「南京戦史」Ｐ３３)

●「安全区」　３．８６k㎡　（「南京戦史」Ｐ３６)

＊なお、笠原氏など日本の「肯定派」は、より広い「南京特別市」を「虐殺の範囲」として考えているようです。

　余談ですが、「高さ１２Ｍの柵」という表現もすごい。筆者はひょっとして、「南京城」の城壁は「木の柵」で作られているとでも思っていませんか？

　

第3国人らも住んでおり、当時の安全委員会委員長ジョンラーベ氏によると当時の人口は20万人で、南京陥落の1ヶ月後にも25万から30万人近くの人口があったとしています。

　だから、この「人口」なるものは、３．８６ｋ㎡の「安全区」だけの話です。「南京市」、あるいは「南京特別市」にどれだけの人口があったのか、誰にもわかりません。

（正確に書けば、前者は「安全区」、後者は概ね「南京城内」ということになると思いますが、ややこしくなるので省略。）

　さらに言えば、「２０万」という数字は、根拠不明の単なる「見当」。「２５万から３０万」という数字は日本軍の「登記数」１６万からの推定。私は、国際委員会の考え方に沿って「推定」すれば、後者の「推定値」は２２～２３万人程度に修正されると考えていますが、こちらもまたややこしくなるので省略します。

　関心のある方は、「南京の人口は増えたのか？」をご覧ください。

　

　さて、やっと、本論。

第一の疑問として、なぜ人口が減っていないのか？

調査による人口が1ヶ月で増えている事実がありますが、南京陥落前に南京を脱出した人達が戻ってきたという事が考えられております。

つまり、街は虐殺があったという事実は無く、むしろ食糧事情も南京城塞都市以外よりも良く、帰ってきたのではと。

　まず、「調査による人口」という表現は間違い。「前」の２０万も「後」の２５万も、別に「調査」を行った数字ではなく、単なる「推定値」です。しかも前者の「２０万」は、根拠不明の単なる「見当」に過ぎません。

　「安全区」の人口は、「減っていない」のかもしれません。しかし、「虐殺の範囲」である「南京市」の人口が果して「減っていない」のかどうか、それは誰にもわからないでしょう。

　「南京市」の人口が減っていない、というのであれば、確かに「虐殺がなかった」ことの根拠になるかもしれません。しかしそのうちごく一部の「安全区」の人口が減っていないかどうかを論じても、何の意味もありません。

　念のためですが、「安全区の外はすべて無人地帯」という「伝説」を信じている方は、こちらの「安全区外の残留住民」以下の３つのコンテンツをどうぞ。南京陥落時点で、「南京城内」、そしていわゆる「郷区」（南京市のうち、南京城内及びその周辺を除く部分）にどれだけの人口が残っていたのかは、統計資料など全くなく、誰にもわからないのです。

　さらにこの筆者は、「治安が回復したので住民が戻ってきた」という田中正明氏流トンデモに影響されているようです。これについては、「南京の治安は回復したか？」をご覧ください。実際に資料に当たると、「安全区外に留まっていた人が、あまりのひどさに堪えかねて、まだしも治安がいい「安全区」に逃げ込んできていた」というのが実情であったことがわかります。

　

第2の疑問　　虐殺現場を見た報告は？

ありません。

当時、安全区にいた外国特派員も自国に報告を入れてはいません。
ただの一報もです。

たかじんのテレビでも外電が打たれたと発言した教授にどこの外電が打ったものかを尋ねると、裏も取れていないためだんまりとしたままでした。

証拠写真も残っていません。

残っている殺戮前の写真はすでに捏造写真であると検証されていますい、死体の転がっている写真も「万人塚」と呼ばれる支那特有の文化と酷似しています。

ちなみに万人塚とは、戦争祭事の一つで、戦時敵の首数を誇る為のもので、古代から京観という首塚を作っていた。

　「外国特派員も自国に報告を入れてはいません」というのは、明らかな大嘘です。

　例えば、「外国特派員」たちのうち、「ダーディン」「スティール」「スミス」です。長文となりますので、見出し、もしくは短い抜粋のみを紹介します。全文を読みたい方は、下をクリックしてください。

●ダーディン　「捕虜全員を殺害、日本軍、民間人も殺害、南京を恐怖が襲う」
　

●スティール　「日本軍、何千人も殺害　目撃者の語る”地獄の四日間”」

●スミス　「そこでわれわれが見たものは、日本軍が広場で一千人の中国人を縛り上げ、立たせている光景だった。そのなかから順次、小集団が引きたてられ、銃殺された。脆かせ、後頭部を撃ち抜くのである」

　しかし誰だか知りませんが、「外電が打たれたと発言した教授にどこの外電が打ったものかを尋ねると、裏も取れていないためだんまりとしたままでした」なんてレベルの方が、よく「南京事件座談会」に出席したなあ。（私はこの番組を見ていませんので、筆者の紹介するこの話が、事実かどうかわかりませんが）

　「証拠写真」云々も、奇妙な議論です。そもそも、「写真」のみを証拠に「南京虐殺」を論じている方など、少なくとも日本のまともな論客の中には、一人も存在しないでしょう。東中野氏は、誰も証拠だと思っていない「写真」を「これが証拠だとされている」と騒ぎたてて、それを否定しているだけの話です。

　そして東中野氏自身、これで「南京虐殺」自体を否定できるとは考えていないのに、なぜか「写真否定」こそが「虐殺否定」の根拠になると勘違いしている方が後を断ちません。この筆者も、その一人であるようですね。

　参考までに、例え正しくても全然「否定」の根拠になりえない「写真検証」自体がいかに杜撰なものであるか、画像資料検証専用板でいやになるほど検証されていますので、関心がありましたらご覧ください。

　

第3の疑問　　写真の虚偽

第2の疑問でも述べている通り、日本軍が行ったものとはっきり証明できるものは無く、写真も捏造と検証されています。
多くが当時の写真ではないものや、日本軍ではないもの、キャプションにより捏造したものがほとんどです。
出所が、南京事件を書いた中国の旅を連載した朝日所蔵の全く異なる写真であったりもします。

　まず大前提の話として、「南京事件論議」では写真の存在はほとんど問題にされていません。個々の「写真」が真実であろうがなかろうが、「南京事件」論議の本体には影響しない、と考えていいでしょう。従って、この「第３の疑問」には、意味がありません。

　にもかかわらず、ネットの世界では、「写真」を否定することが「虐殺」否定の根拠になる、と勘違いする方が多いようです。

　しかもその「写真検証」自体、杜撰極まりないものです。詳しくは、先に紹介した、「画像資料検証専用板」をご覧ください。

　

第4の疑問　　100人斬りは可能か？

日本刀では無理です。鉄兜もろとも叩ききる銃刀を日本軍は有しておりません。刀とは日々ケアするもので、2～3人切っただけでも歯は使い物になりません。

ただ刺すだけの道具に成り下がります。

　まず最初に念押ししておきますが、「百人斬り」は、「南京事件」全体を考えた場合、ほとんど重要性を付与されていない、一エピソードです。例え「百人斬り」が否定されたとしても、大量の捕虜殺害・各所での民間人殺害を骨子とする「南京虐殺」の存在自体がゆらぐことはありません。

　にもかかわらず、なぜか「否定派」は、ほとんどどうでもいいエピソードである「百人斬り」否定に力を入れています。いわゆる「一点突破、全面展開」というやつでしょうか。

　「日本刀３人限界説」には私も少し興味を惹かれましたので、言い出しっぺは山本七平氏の著作をじっくりと読んでみました。その上での結論ですが、山本氏の記述は、よく読むと、全然「３人限界説」の根拠になっておりません。詳しくは、

「何人斬れるか－日本刀の性能　その１　山本七平氏の「体験」」
「何人斬れるか－日本刀の性能　その２　『戦ふ日本刀』をめぐって」

にまとめておきましたので、関心のある方はご覧ください。

山本氏が、いかにいい加減な根拠から「３人限界説」を打ち出しているか、わかると思います。

　しかしこの筆者のコメントも、相当いいかげんです。「鉄兜もろとも叩ききる銃刀を日本軍は有しておりません」って、ひょっとして筆者は、「百人斬り」とは「鉄兜もろとも百人斬った」話だとでも思っているのでしょうか？　・・・という突っ込みはさておいても、「鉄兜を叩ききる」ことは、「百人斬り」の可能性の必要条件では全くないでしょう。

　余談ですが、山本氏の根拠文献である『戦ふ日本刀』には、ちゃんと「鉄兜を斬った」エピソードが登場します。

　

そもそも何故虐殺は1ヶ月超としたのか？

太平天国の乱の際に、湘軍による南京での虐殺が1ヶ月続き、その際に、南京城から財宝を運び出すのにかかった日数がその間続いたとされることを参考にしたものでしょう。

自国の大量虐殺のケースを利用して考え出されたものであります。

　そ、そうだったんですか。これはおそらく、誰も唱えていない、筆者のオリジナリティ溢れる「新説」だと思います。（もし他に、ここまでとんでもない「説」を唱えている方をご存知でしたら、ご教授ください）

　正確には、「東京裁判」では「６週間」と主張されていたと思います。中国側の主張では、もう少し長かったかもしれません。

　しかし、「１か月超」という材料だけから、「太平天国の乱の際に・・・財宝を運び出すのにかかった日数」との同一性に着目してしまうとは。う～ん。

　そもそも一体、「期間」を合わせることに、何の意味があるというのでしょうか。

　

（２００５．４．１０記）

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