本多勝一記者「代弁しただけ」発言を巡って |
「私は中国側の言うのをそのまま代弁しただけですから、抗議をするのであれば、中国側に直接やっていただけませんでしょうか。」 ―この発言は、ネットの中で、「本多氏の取材姿勢の偏り」なるものを象徴するものとして、しばしば取り上げられます。 しかしこの取り上げられ方は、本多氏の真意が歪められて伝えられている感があります。以下、発言に至る経緯、本多氏側の言い分を含めて、この問題を見ていきましょう。 *本コンテンツは、「代弁しただけ」という表現を巡る問題をテーマとしたものであり、「万人坑」の存否論議にまで踏み込んだものではありません。 また、「本多氏の真意」のニュアンスを正確に伝えることが目的であり、その「真意」をどう判定するか、ということは読者にお任せしています。念のため。 この発言が最初に取り上げられたのは、田辺敏雄氏の著作『平頂山事件』でのことでした。
まず注意すべきは、この部分が本多氏の了解を得ない、第三者による、一方的な「私信公開」であることです。田辺氏は「公表して差し支えない」という根拠を述べてはいますが、以下にも述べる通り、 少なくともこの「公開」は本多氏の意思に反するものであったことは間違いないところです。 さらに本多氏の発言は、やりとりを見ればわかる通り、「万人坑」問題に限定したものです。決してルポの全体が「代弁」である、と述べているわけではありません。 ネットでは、しばしば「南京事件」について本多記者が中国側の「代弁」を行ったような話になってしまっている例が見られますので、念のために強調しておきましょう。 *余談ですが、ネットでは、「直接やっていただけませんでしょうか」という丁寧表現が、 「直接やってください」という、突き放したような強い断定調に化けてしまっている例をよく見かけます。 どうやら出典は、例の田中正明氏の「平和甦る南京」の写真特集であるようです。(2020.5.19現在、リンク切れとなっています) このあと田辺氏と本多氏の間で、私信のやりとりがあったようです。田辺氏が、「続報」を記しています。
本多氏はここで、「私信公開」に対する抗議を行っていたようです。 田辺氏のような紹介ですと、本多氏の取材姿勢は一方的で無責任なものであるように見えてしまいます。さて、本多氏自身の言い分を見ましょう。
どうやら本多氏は、公開を予定しない「私信」という気楽さも手伝って、つい誤解を与える「代弁」という表現を使ってしまったようです。実際には、上の文にもある通り「紹介」という言葉を使うべきところだったでしょう。 ニュアンスが全く違ってきます。 実際に『中国の旅』を読み返すと、この部分はこのようになっています。
必ずしも中国側の見解を全面的に信用したものではないことがわかります。本多記者は、この文中では、「万人坑」の存在を否定も肯定もしていません。ただ、中国側からこのような発言があった、という「事実」を伝えたのみです。 おそらく本多氏は、こう言いたかったのでしょう。自分は、中国側の主張をひとつの「意見」として紹介している。別に自分が、その主張に全面的に賛同しているわけではない。 だから、中国側の主張への批判を私に向けるのは筋違いだ。 「抗議をするのであれば、中国側に直接やっていただけませんでしょうか」という発言は、そういうものとして読むべきでしょう。 (2006.11.1)
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