ヒル・レポート

松村高夫編『<論争>731部隊』所収



ヒル・レポート 

ヒル・レポート(「総論」)

APO 500
一九四七年一二月一二日

件名‥細菌戦調査に関する概要報告
宛先‥オルデン・C・ウエイト
   化学戦部隊主任
   国防総省、25、 ワシントンD.C.

1.前文

 文書命令AGAO−C200.4(1947.10.15)(A表)に依り、エドウィン・后Ε劵詛郢痢Dr.Edwin V.Hill)ジョーゼフ・ヴィクタ一博士が、日本の東京に一九四七年一〇月二八日到着した。

 調査は下記のような要領で実施された。

 極東軍総指令部G局参謀長チャールズ・A・ウィロビー准将の全面的協力により、我々はG兇料瓦討了楡澆鰺用でき、任務は大いに促進された。尋問した人たちから得られた情報は任意(「ゆう」注 原文voluntarily=自発的)によるものであることは特筆すべきである。尋問のあいだ戦争犯罪の訴追免責を保証することについては、全く質問がだされなかった。(P274)

(松村高夫編『<論争>731部隊』所収)


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2 目的

 A 細菌戦に関し日本側要員から提出された諸報告書を明確にするのに必要な追加情報を得るため

 B 細菌戦諸研究施設から日本に移送された人間の病理標本を調査するため

 C その病理標本の意義を理解するのに必要な説明文書を得るため(P275)

(松村高夫編『<論争>731部隊』所収)

 


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3 方法

A 細菌戦に関してハルビンまたは日本で研究した以下の人たちを尋問した。

 主題  尋問した医師  
 エアゾール  高橋正彦 金子順一  表B
 炭疽   太田澄(きよし)  表C
 ボツリヌス  石井四郎  表D
 ブルセラ  石井四郎 山之内裕次郎 岡本耕造 早川清   表R
 コレラ  石川太刀雄 岡本耕造  表H
 毒ガス除毒  津山義文   
 赤痢  上田正明 増田知貞 小島三郎 細谷省吾 田部井和  表機J、K、M
 フグ毒  増田知貞  中間報告
 ガス壊疽  石井四郎  表L、M
 馬鼻疽  石井四郎  表A、J
 インフルエンザ  石井四郎  表N
 髄膜炎  石井四郎 石川太刀堆  表O
 粘素(ムチン)  上田正明 内野仙治  表P
 ペスト  石井四郎 石川太刀雄 高橋正彦 岡本耕造  表B、R
 植物の病気  八木沢行正  表S
 サルモネラ  早川清 田部井和  表Q、K、F
 孫呉熱  笠原四郎  北野政次 石川太刀雄  表T、V
 天然痘  笠原四郎  石川太刀雄  表V
 破傷風  石井四郎 細谷省吾 石光薫 表M、W、X 
 森林ダニ脳炎  笠原四郎 北野政次  表Y
 つつが虫  笠原四郎  表Z
 結核  二木秀雄 石井四郎  表AA
 野兎病  石井四郎  表AB
 腸チフス  田部井和 岡本耕造  表K、AC
 発疹チフス  笠原四郎 有田マサヨシ 浜田トヨヒロ 北野政次  石川太刀雄  表AD、AE、AF、AG、AH、AI
 載物ガラス目録
(「ゆう」注 原文は"Index to
Slides"=スライド目録)
  表AJ 
(P275-P277)


B 金沢で我々に提出された病理標本は全く無秩序な状態にあった。この標本を事例番号順に整理し、標本番号の一覧表をつくり、標本を目録に記入することが必要であった。

C 尋問した人々から得た情報は、笠原四郎博士の場合を除いて記憶によるものである。笠原博士は、孫呉熱の実験をした三つの主題の温度表とそれに関連する臨床データの記録を所有していた(表T、U)。(P277)

(松村高夫編『<論争>731部隊』所収)
 


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4 諸結果

A 日本人の細菌戦報告で以前に提出された主題に関し追加的情報が得られただけでなく、日本人によって徹底的に研究されたが以前には報告されなかった多数の人間の疾病について、多くの情報が蒐集された。

 下の表は、以前の報告で言及された疾病と、研究はなされたが以前には報告されていない疾病に分けて示している。(P277)

 既に報告されたもの  未だ報告されていなかったもの
 炭疽 ポツリヌス 
エアゾール  ブルセラ 
コレラ  毒ガス除毒 
馬鼻疽  フグ毒 
ペスト  ガス壊疽 
植物の病気  インフルエンザ 
サルモネラ  髄膜炎 
孫呉熱 粘素(ムチン)
破傷風  天然痘 
腸チフス  森林ダニ脳炎 
発疹チフス  結核 
  野兎病
  つつが虫

(P277-P278)

B 金沢の病理標本は、ハルビンから石川太刀雄によって一九四三年に持ってこられた。それは約五〇〇の人間の事例からの標本から成っている。そのうちの四〇〇だけが研究に適した標本である。

 ハルビンで解剖された人間の事例の総数は、岡本耕造博士によれば、一九四五年に一〇〇〇以下であった(表R)。この数は石川博士が日本に帰ったときのハルビンに現存していた数より約二〇〇多い。最初に提出された標本目録の結果からして、多くの標本が提出されていないことが明らかであった。(P278-P279)

 しかしながら、最初提出されたよりも著しく多い標本の追加的コレクションを入手するには、多少催促をするだけでよかった。

 左の表は、様々な疾病毎の事例数と研究に適した標本の事例数である。八五〇の記録された事例があったが、四〇一例が適した標本であり、三一七例は標本がない。これは岡本博士の説明によるものであり、彼は五〇〇を越えない事例が石川博士によりハルビンからもってこられたことに疑いをもっている。(P279)

 疾病 人間の事例
適切な標本 
合計 
 炭疽 三一   三六 
 ポツリヌス   〇     二 
 ブルセラ   一     三 
 一酸化炭素   〇     一 
コレラ  五〇  一三五 
赤痢 一二    二一 
馬鼻疽  二〇    二二 
髄膜炎    一     五 
マスタードガス(イペリット)   一六  一六 
腺ペスト 四二  一八〇 
流行性ペスト  六四    六六 
中毒    〇     二 
サルモネラ  一一    一四 
孫呉熱 五二  一〇一 
天然痘    二     四 
連鎖状球菌   一      三 
自殺  一一   三〇 
破傷風  一四    三二 
森林ダニ脳炎   一     二 
つつが虫    〇     二 
結核  四一    八二 
腸チフス  二二    六三 
発疹チフス    九    二六 
種痘    二     二 

(P279-P280)

C 個々の調査者から特別の説明文書を入手した。実験に関する彼らの記述は別の報告書に収めてある。これらの説明文は、一覧表で示された病理標本をわかりやすく説明するものであり、人間および植物に対する伝染病の実験の程度を示すものである。(P280)

(松村高夫編『<論争>731部隊』所収)
 


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5 この調査で収集された証拠は、この分野のこれまでにわかっていた諸側面を大いに補充し豊富にした。それは、日本の科学者が数百万ドルと長い歳月をかけて得たデータである。情報は特定の細菌の感染量で示されているこれらの疾病に対する人間の罹病性に関するものである。

 かような情報は我々自身の研究所では得ることができなかった。なぜなら、人間に対する実験には疑念があるからである。これらのデータは今日まで総額二五万円で確保されたのであり、研究にかかった実際の費用に比べれば微々たる額である

 さらに、収集された病理標本はこれらの実験の内容を示す唯一の物的証拠である。この情報を自発的に提供した個々人がそのことで当惑することのないよう、また、この情報が他人の手に入ることを防ぐために、あらゆる努力がなされるよう希望する。

                     エドウィン・后Ε劵襦M.D.
                    主任、基礎科学

キャンプ・デトリック、
メリーランド(P281)

(松村高夫編『<論争>731部隊』所収)
 



(2015.11.29)


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