家永教科書裁判・秦郁彦証言(控訴審)

1991年10月21日 東京高等裁判所

家永教科書裁判・秦郁彦証言(控訴審)

控訴(附帯被控訴)代理人(渡邊)

○今の裁判長の整理によって、一九八四年はフェル・レポート、一九八六年はヒル・レポートということのようですが、一九八四年にフェル・レポートが公開されたというのは、どの書物による御指摘なんでしょうか。

 先刻も申しましたように、一九八四年というのは総合的に私が判断したと、これが基本にあるわけです。

 部分的には、これが常石さんの本に出ております。アメリカのナショナル・アーカイブの公開状況から言いますと、正確に何年何月という断定はできないわけです。公開とはどれを指すんでしょうか。(P197-P198)


裁判長

○おっしゃっている趣旨は分かるんですけれども、公開というのは、あなたがさっきからおっしゃっているのは、一般的に目に触れるようになったという状態をおっしゃっているわけでしょう。

 
 それをはっきり分けてお聞きいただければ、答えようもあると思うんです。


○ここでおっしゃっている公開というのは、一般の目に触れるようになったという趣旨でお使いになっているんじゃありませんか、言葉を。


 必ずしもそうではありません。


公開というのは、どういう状態をおっしゃっているんですか。

 おおむね必要な範囲の情報が含まれたものが、研究者の相当部分に確実な形で周知されるということで、必ずしも一般公衆ということは意味しておりません。


○研究者が手に入れようとすれば、特定の人でなくて、手に入るようになったと、そういう
意味ですか。

 大体そういうことです。


○それを一九八四年と限定されたのは、どの状態を指しておっしゃったんでしょうか。
 
 したがって、研究者仲間その他の情報、それまでに部分的に紹介されている印刷物その他から総合判断をして、一九八四年あるいは一九八六年というふうに申し述べているわけであります。(P198-P199)


少なくとも、それより前には入手できなかったと、こういうことを意味しているわけですね。

 大体そういうことであります。


控訴(附帯被控訴)代理人(渡邊)

○じゃあ、聞きますけれども、総合的というふうにおっしゃいましたけれども、今、フェル・レポートについては常石さんの文献を挙げられましたね。それ以外の文献はございますか。


 部分的にということから言えば、さっき申しましたようなパウエルもそうでありましょう。それから、生の形で入手して研究論文を発表していない人も、我々の知らないところでかなりあるかと思います。


○私が聞いているのは、公開されたものというふうにお聞きしているんです。
 
 公開されたもので極めて満足すべき公開状況は、これはやはり常石さんの一九八九年、大体これでほぼ満足できる状況です。


裁判長

○公開されたものは、常石さんのもののほかに何かありましたかという質問です。

 あるかもしれません。


○いや、あなたが知っていた範囲で。(P199)

 それぐらいではないでしょうか。(P200)

(松村高夫編『<論争>731部隊』所収) 


家永教科書裁判・秦郁彦証言(控訴審)

控訴(附帯被控訴)代理人(渡邊)

○一九八六年はヒル・レポートとおっしゃいましたね。先程のフェル・レポートに関連して同じ趣旨なんですが、ヒル・レポートがあるということが分かった資料というのは、どんなものでしょうか。端的にお答えください。

 どんなものでしょうかと聞かれても困りますけれども、大体フェル・レポートの各論に記述されたものとほぼ内容の重複するようなものが記載されておりまして、これは人体実験を立証するというふうに理解をしています。


○その内容はいいです。あなたがヒル・レポートが公開されたというふうに言っているのは、どんな文献に、一部でも全部でも結構ですから、紹介されたから公開されたというふうにお考えなんでしょうかという端的な質問なんです。

 常石さんの本じゃないでしょうか。


○常石さんの何ですか。

 「消えた細菌戦部隊」の増補版などだと思います。


○これらのフェル・レポート、それからヒル・レポートの現物は、あなたはお持ちですか。

  持っております。


○原文はお持ちですか。

  持っております。(P200)


○フェル・レポートの原文は、いつ、どこから入手しましたか。

 入手先については申し述べたくありません。


○じゃあ、いつでしょうか。

 明確に記憶をしておりませんが、一九八四年以降であることは確かであります。昭和六二年、すなわち一九八七年ですか、私が原審で証言した時点では私はまだ入手しておりませんでした


○ヒル・レポートはいつ入手しましたか。

 それも同様でありますが、確か同時に人手したと思います。いずれにしても、原審での証言以降のことであります。


○そうすると、あなたはヒル・レポートの全文をお持ちですね。


 全文であるかどうかは確認できません。しかしながら、大体要点は尽くしたものと考えております。


○先程、「消えた細菌戦部隊」の増補版でヒル・レポートが一九八六年に公開されたんだとおっしゃいましたね。

 ちょっと意味がよく取れないんですが。


○先程私が何回かしつこく聞いた部分なんですが、ヒル・レポートについては一九八六年に公開されたというのは、「消えた細菌戦部隊」の増補版であるという趣旨の証言をしたんでしょう。(P201)

 それが「消えた細菌戦部隊」に印刷した形で記載されていると、こういう理解です。(P201)


○ところが、この増補版というのは、出版が一九八九年なんですよ。そうすると、「消えた細菌戦部隊」の増補版ではないんじゃないですか。分からないなら分からないで結構です。


 それは、入手された後、ほかに部分的に常石さんが発表したものがあると記憶しております。


裁判長

○一九八六年に公開されたというのは、公の刊行物でどういう状態を言うんですかと聞いたら、常石さんの「消えた細菌戦部隊」に載っていたんだと、こうおっしゃったんで、それは一九八九年だから、一九八六年ではないんじゃないですかという質問です。


 ですから、入手した時点と……。


○入手したことじやなくて、公開された状態を聞いているんです。

 これを公開と言えば、そう言えるかもしれませんけれども、私自身は一九八九年以前にこれを入手しております。(P202)

(松村高夫編『<論争>731部隊』所収) 


家永教科書裁判・秦郁彦証言(控訴審)

 
控訴(附帯被控訴)代理人(渡邊)

○先程の「正論」の下の二五五ページの上段の真ん中辺に「四七年八月五日の米海軍情報部レポートはフェル報告の成果を要約したものだが」云々とありますね。


 (うなずく)


○これは後でも聞きますけれども、この「米海軍情報部レポート」というのは、これはフェル自身が作成したもののうちの全文ではありませんか。
(P202-P203)

 フェル・レポートと言っている場合には、フェル自身がどこからどこまで執筆したのかどうか、それは簡単には知り得ない。時にこういうレポートの場合は、付属部分のほうが極めて重要である。したがって、私はそういう観点で比較をしたことはありません。


裁判長

○そうなのか、そうでないのか、分かりませんか。

 分かりません。(P203)

控訴(附帯披控訴)代理人(渡邊)


○「正論」で、先程私が具体的に言いましたが、七三一部隊の本来の目的は細菌の実用兵器化であり、そのために人体実験を行い、現実にも細菌戦を実施したという内容をここでお書きになっていますけれども、これらを書くにあたって依拠した史料というのはどういうものですか。

 
 極めてたくさんでありまして、オーラルも含んでおります。簡単に直ちには申し上げられない。


○原審の段階では、人体実験については、やったか、やらないか分からないという御証言だったんですが、人体実験について依拠した最大の史料は何でしょうか。

 いろいろありますので、一概には申せません。(P203)


○具体的に幾つでも結構ですから、挙げてください。

 この論文の中にそれぞれ引用がありますので、それでもって御判断をいただきたいと思います。


○援用がありますが、例えば人体実験については、フェル・レポートなりヒル・レポートなりの内容を具体的に示して援用されて書かれた部分は人体実験に関してはありませんが、そうすると、それを除いた史料によって人体実験についてお書きになったというふうに判断してよろしいんですか。


○そうではありません。(P204)

(松村高夫編『<論争>731部隊』所収) 


家永教科書裁判・秦郁彦証言(控訴審)

○細菌戦について書かれておりますが、それについて最も依拠した史料というのはどんなも
のですか。
 
 これも多々あって、一概には申せません。
 

○そうすると、あなたの証言をこういうふうにお聞きしてよろしいんでしょうか。この「正論」を書くについては、私、全部数えたんですが、ここに約三〇点ほどの史料が表示されているんですが、そういうものに基づいてあなたがお書きになったというふうに理解してよろしいですか。

 これは学術論文の体裁をとつておりませんので、省略しているものもあります。ほかにもかなり多数あります。


○じゃあ、こういうふうに聞きましょう。細菌戦について依拠した史料について、あなたはトンプソン・レポートを参照しましたか。
(P204-P205)

 参照したと思います。


○ハバロフスク裁判記録はどうですか。
 
 参照しております。


○ほかに、あなたが細菌戦について依拠した史料を、記憶する範囲でお挙げになってください。


 細菌戦の意味をもう少し具体的におっしゃっていただきたい。


○細菌戦を実施した事実についてあなたがお書きになった拠点史料です。

 ただ一つの拠点史料というようなものはありません。これはすべて総合でありまして、それぞれの場所に、それぞれ記述してありますので、それで御判断をいただきたい。


○全部挙げろとは言っていないんです。あなたは史料について、いろいろ史料批判して、重要な史料と、そうでない史料を区別なさっているでしょう。

  はい。


○あなたは、筆頭史料、次頭史料という趣旨で、原審において区別して証言なさっていますね。ですから、お聞きしているんですよ。どういうものを主として依拠して、細菌戦の実施についてお書きになったのかという質問なんです。


  具体的に、ここに引用されている史料についてどう思うかという御質問なら答えやすいんですが、ちょっと今のような御質問の形では答えにくいですね。探していかなきゃいかんのでですね。(P204-P205)


○あなたの記憶にないですか。今記憶で思い出せないですか。例えば、こういう史料、こういう史料、こういう史料を主として自分としては前提にしてお書きになった、あるいは、こういう史料が重要だと思ってお書きになったと。


 非常に数が多いので、漏れたときに……。


(松村高夫編『<論争>731部隊』所収) 


家永教科書裁判・秦郁彦証言(控訴審)

裁判長

○主要な史料と、それの補足史料という形で考えて、主要な史料というのを幾つか挙げられませんかという質問です。

 特に一つ、二つというふうには、私は申し上げないほうがいいと思います。


○そうすると、そういうものはないんですか。そういう分け方をして、主要な史料と……。

 この論文の中に、多々、その都度列挙してあります。


○それを読んだ上でお聞きしているんで、この場合にはそういう史料の分け方はできないんですか。

 総合判断でありますから、ここで私が等級を付けるということは避けたいと思います。


控訴(附帯被控訴)代理人(渡邊)

○あなたは原審で、フェル・レポートが出るまでは学術的な論文を書けないというふうに、具体的に史料の区別をして証言なさっているんですよ。だから、二等の史料の中でも、あるいは三等の史料の中でも、順次史料を判断してお書きになったと思うので、それの上のほうでも結構ですから挙げてくださいという質問ですよ。(P206-P207)
 
 フェル・レポートについての証言は、マルタについての人体実験のほうについて申し述べたことだと思います。今のは細菌戦の実施のほうだと思いますが。


○ですから、それは何ですかという簡単な質問です。

 等級をここで分けることは、私は避けたいと思います。なぜならば、私は自分で第一級のものだというふうに判断したもの、更にそのほかと総合して、最終的に結論を出すわけでありますから、ここで非常にレベルの落ちる、自分で信頼できないというようなものは使っておりません。


裁判長

○だから、あなたが第一級とお考えになった史料は何ですかと、そういう質問なんです。
 
 多々ございます。(P207)

(松村高夫編『<論争>731部隊』所収) 


家永教科書裁判・秦郁彦証言(控訴審)

控訴(附帯被控訴)代理人(渡邊)

○具体的に挙げてください。幾つでも結構ですから。

 例えば、下の二四三ページ、「柳田節子稿、『歴史評論』一九八六年四月号」、これもそうだろうと思います。それから。「石井部隊航空班の某氏」と、ここにございますね。それから、フェル・レポートの尋問も出てまいります。


○ヒル・レポートはどうですか。

 ヒル・レポートについては、ここには特に書いてありませんね。それから、二四四ぺ−ジから二四五ページ、ここに出てくる七三一部隊の幹部たちの一部の人からの証言、そういうものを組み合わせて判断をしております。そのほか、まだここにたくさん出てまいります。第一三軍の資料だとか。(P207-P208)


○もういいです。その中にいろんな史料があります。そのうち、最も重要な史料と思われるとあなたが判断したものは何だったか、記憶がありますか、ありませんか。細菌戦です。


 細菌戦は、あっちこつちでやっているわけです。ですから、それぞれについて出所が違うわけです、データが。ですから、一概に全般を通じて、ここでランクを付けろというのは無理だと思うんですね。


○「正論」の上の二六〇ページの下段、「だが、これらの成果は純学術的には貴重であっても、七三一部隊の本来の目的からすれば、二次的な重要性しか持たなかった。研究開発の重点は、あくまで細菌を実用兵器化することにあったからだが」云々というふうにおっしゃっていますね。原審では、七三一部隊の本来のスタートの目的がどうだったか、よく分からないというふうな御証言だったですね。

 部分的にはね。


○二六〇ページの今読んだ部分では、具体的な史料が引用されておりませんね。

 はい。


○こういう事実をお書きになった最大の史料、拠点とした最大の史料はどんなものでしたか。

 これは、吉村さんに私がインタビューしたわけです。吉村寿人博士ですね。吉村さんの私家版の刊行物があります。それを私は拝借をして読ませてもらいました。(P208-P209)


○それでこれをお書きになったと。

 それだけではありませんけれども、それがさっきからおっしゃっている主たるものです、この部分については。(P209)

(松村高夫編『<論争>731部隊』所収) 


家永教科書裁判・秦郁彦証言(控訴審)

○「正論」の上の二五一ページの上段から、「陸大を出た高級将校が」云々というふうにあって、最後の二行に「と述べているのを自発的発言と受けとる人はあるまい」と、そういうふうにお書きになっておりますね

 はい。


○これは先程あなたが御証言なさいましたね、具体的な人間も。

 はい。


○「と述べている」の主語は、「陸大を出た高級将校が」というのがこの文章の主語ですね。

 最後までかかっているかどうかということは、必ずしも明確ではありません。


○全部読みましょうか。

「陸大を出た高級将校が『天皇裕仁の秘密軍令』とか『マルタは中国人民革命軍の兵士及びパルチザン』式の表現をするはずはないし、『天皇裕仁、石井中将及び若松少将が厳重処罰されることを期待するものであります』とか『自分の余力を、かかる非人道的行為に反対する闘争に、平和の為の闘争に向けるよう努力します』と述べているのを自発的発言と受けとる人はあるまい。」という文章ですが、この文章の主語は「陸大を出た高級将校が」という以外にございますか。
(P209)

 日本語の表現はかなりあいまいですので、この点は私は不注意だったかもしれません。したがって、これはまだ雑誌論文でありますから、単行本にするときには、「陸大を出た高級将校などが」と、こういうふうに直したほうが誤解を招きにくいというふうに判断いたします。


○あなたは先程も御証言なさったように、ハバロフスク裁判記録については史料批判を要する点が多々あるといった上で、この文章をお書きになっていることは間違いないですね。


 そうです。


甲第七一七号証の二(原告側作成の、「ハバロフスク裁判記録」と秦郁彦論文の記述の異動を示したもの)を示す

○この下段を見てください。私もハバロフスク裁判、公判記録を全部調べる能力がなかったんですが、斜め読みに読みましたが、

その下段の,痢崚傾塚疑里糧詭軍令」というのは、起訴状中に川島清の供述として書かれている部分。

△痢崚傾塚疑痢∪舒翆羮及び」云々というのは、被告平櫻全作が最後の陳述中に述べている言葉です。

それから、「自分の余力を」云々というの部分は、被告尾上正男が最後の陳述中に述べている言葉です。これは先程あなたも御証言なさいましたね。


 はい。


○川島清は軍医少将、平櫻全作は獣医中尉、尾上正男は軍医少佐と、どうもこのハバロフスク裁判の段階ではそういう地位にあった方ですが、これらの方は陸大を出た人ですか。

 松村知勝は陸大を出ております。それから、川島清、尾上正男は軍医学校の甲種学生を終了しておりますが、人事的にはこれは陸大卒業生と同等の扱いを受けるということになっております。

 しかしながら、誤解を招くおそれがあるので、「高級将校など」という表現にしたほうがここでは適切だろうと思いますが、ここの文章の重点は「自発的発言」というところにあると思うんです。(P210-P211)

(松村高夫編『<論争>731部隊』所収) 


家永教科書裁判・秦郁彦証言(控訴審)

○「正論」の下の二四六ページの中段、「松村知勝大佐は、ハバロフスク裁判で次のように証言している。」として、一段落落としていますね。これは、ハバロフスク裁判をそのまま引用したものだというのが、この表記の方法ですね。

 だと思います。


甲第七一七号証の一を示す

○この右側の枠内があなたが引用した部分です。

 これによりますと、まあ、この片仮名を平仮名に直すのは分かるんですが、例えばいろいろありますが、助詞を入れると幾つかあるんですが、五、六点ありますが、このうちの特に枠内の五行目、「細菌兵器」という部分があなたの引用部分にはないんです。

 それから、更にその二行目後、これも「細菌兵器」という部分がないんです。「正論」には、「細菌兵器使用法を研究、完成するよう命令しました」と、こうありますが。

 引用というのは、そのまま正確に引用するものではありませんかと聞いたら、そうですというふうにあなたがお答えになったから、この引用は不正確ではないですかという質問だけです。
(P211-P212)

 全体としては、不正確だとは思いませんけれども。


○引用というのは、原典をそのまま引用するというのが、学術的な初歩的な方法じゃないですか。


 場合によります。これは学術論文ではありません。(P212)

(松村高夫編『<論争>731部隊』所収) 


家永教科書裁判・秦郁彦証言(控訴審)

○この「正論」を書くにあたって、医者にお聞きになりましたか。

 七三一部隊の幹部は大体医師出身者であります。


○あなた、原審では、人体実験について書く場合には、医者に相談しなきゃいけないという趣旨の証言をいたしましたね。


 したほうがいいというのが私の意見であります。


○医師の友人なり何なりに確認する。更に、その医師に確認してもらったということを公示するというふうにあなたは証言しているんですよ。

 それは、七三一部隊の医師の幹部にインタビューできないときにはという条件付きなんです。


○そうすると、この「正論」を書く場合に、まず第一にあなたは医師の幹部にお聞きになったんですか。

 
七三一部隊の複数の医師出身の幹部、現在医師をやっている人も含みますけれども、たくさんの人に私はインタビューいたしました(P212)


○具体的に名前を挙げられますか。

 ここの中に出てくる人はありますけれども、匿名を希望した者もありますので、それはお答えできません。


○森村さんの場合も匿名になっている例が多いですけれども、あなたと同じ立場でしょうね。そうだとすると、医師に確認してもらったということを公示すると原審で述べられていますけれども、この「正論」の中にそれを公示した部分がございますか。

 七三一部隊の幹部の軍医が出てくるということは、それ、すなわちそうだというふうに読者は判断するだろうと思います。


○そうすると、それはどなたとどなたですか、ここで出ているのは。

 直ちに言われても、探すのに少々時間がかかりますけれども。


○あなた、原審でも、そういう上級隊員の証言を得るのは非常に必要だと。そして、私も一生懸命探したというふうにおっしゃったでしょう。そうだとすると、医師の上級隊員についてのお名前を何人か、すぐに思い出せませんか。

 そちらからおっしゃっていただければ、私はどういう人か御説明いたします。


裁判長

○この中に挙げている医師で、上級隊員という方のお名前は今挙げられませんか。探さないと挙げられませんか。記憶で聞いているんですが。

 例えば、目黒正彦薬剤大尉があります。それから、景山軍医大尉も確かそうだったと思いますね。それから、どこかへ出てくるんですがね……、まだ何人もあります。(P213-P214)

(松村高夫編『<論争>731部隊』所収) 


家永教科書裁判・秦郁彦証言(控訴審)
 
控訴(附帯被控訴)代理人(渡邊)

○次に、原審の証言についてお聞きします。あなたは原審の証言の一一九項で、「アメリカのフェル・レポートを除く文書のコピーも持っております」というふうに証言なさっていますね。


 はい。


○この当時、あなたはヒル・レポートはお持ちになっていなかったわけですね。
 
 持っておりません。


○フェル・レポートについて、四一項で、「それを記述したフェル・レポートがいまだに見付からない。但し、フェル・レポートにはこういうことが書いてあるという間接の報告書、これは常石さんの本にも出ておりますけれども」というふうにあなたは御証言なさっていますね。


 はい。


○この当時、あなたが表現なさった、ここに書いてある「間接の報告書」という文書ですね、この文書こそがフェル自身が直接お書きになったものではありませんか。


 分かりません。


○あなたは今日の証言でも、フェル・レポートに総論と各論があるというふうにおっしゃいましたね。
(P214)

 はい。


○あなたがおっしゃる、あるいは前回の松村先生がおっしゃったフェル・レポートの総論というものが、あなたが御指摘になった「標的・イシイ」の中に書いてあるものではありませんでしたか。


 完全にそれがフェル・レポートのいわゆる総論に当たるものかどうか、頭書きもひっくるめて完全であるかどうかは、私もちょっと確信が持てません。大体要点は出ていると思います。


○でも、直接書かれたレポートというのが、あなたのおっしゃる「間接の報告書」ではなかったですか。イエスかノーかだけで答えてください。


 六〇ページのレポートのことですか。


裁判長

○あなたが原審でおっしゃった「間接の報告書」、これはまさにフェルが書いたものじゃありませんかと、こういう質問です。


 海軍の要約ですね。で、これはフェルの書いたものと推定をされます、この時点では。推定はされておりましたけれども、確認はしておりません。


○あなたがさっき分からないというのは、確認はできないと、こういう意味ですか。

 つまり、フェル・レポートの定義が人によって違うものですから、したがって……。


○あなたがおっしゃった「間接の報告書」というのは、これはフェルが書いたものをあなたはおっしゃっているんじゃありませんかと聞いているんです。
(P215-P216)

 そうです。(P216)

(松村高夫編『<論争>731部隊』所収) 


家永教科書裁判・秦郁彦証言(控訴審)

控訴(附帯被控訴)代理人(渡邊)

○原審の証言の四二項、尋問の内容を言いますと、「人体実験に関する『六〇ページのレポート』である。このレポートは有名ではあるが、一九八三年夏の段階ではその所在すら確認されていない」というふうにありますね。この「六〇ページのレポート」というのは、日本の細菌戦専門家一九人が人間を使った生物研究についての六〇ページのレポートではありませんか。

 そういうふうに理解しております。


○これはフェル自身の作成したものではございませんね。フェル自身が直接に自分で作成したレポートではございませんね。

 直接に作成したかどうかということについては、私は何とも申し上げられません。つまり、筆記した人がだれであるのか、それに対してフェルが手を加えてまとめたかどうかという、そこら辺りの細かい状況については何とも言えないという意味であります。


甲第六八八号証(フェルレポート総論)を示す

○二ページを見てください。「A 細菌戦計画における重要人物のなかの一九人(重要な地位に就いていた数人は死亡している)が集まり、人間に対してなされた細菌戦活動について六○ページの英文レポートをほぼ一ヵ月かけて作成した。」というふうに、このこのレポートの作成名義人は日本人であるということがこの文章から明らかなんですが、あなたの理解は違うんですか。違うかどうかだけでいいです。

 日本人が陳述したものであるという認識はしております。


○陳述したというよりも、ここでは「一ヵ月かけて作成した」と書いてあるんです。陳述と作成では違いますけれども、作成したというふうにあなたは理解できませんか。


 英文でありますから、作成とはいかなる意味なのか。(P217)

(松村高夫編『<論争>731部隊』所収) 


家永教科書裁判・秦郁彦証言(控訴審)

○じゃあ、それはその程度にします。次に、あなたは原審の証言の四七項で、原告(家永)が大きな振幅を示した歴史研究者であるというふうにおっしゃっていましたね。


  はい。


○あなたは「日本占領秘史」というものをお書きになりましたね。あなたも執筆者の人として。

  そうです。


○その下の中に、金原左門先生が解説をお書きになっておりますね。

 記憶しておりません。


○その金原さんの解説の中で、三二二ページで「わたしはなぜかこの答えは慎重さと適切さを欠いていたと首をひねらざるをえない。」とか、あるいは三二三ページで「家永氏は『変節組』を代表する人物ではないからである。」と、そういうことを書いてあることは御存じですか。


 記憶しておりませんが、それは初版でしょうか。(P217)


○もう既に甲第三九六号証の二で出されているんです。

 それから、甲第三九八号証の四七二ページで、尾鍋輝彦さんが、家永氏は「学問外の何かにこびたところは少しもない。」「『軍部に迎合したり、戦争を礼賛するような論文』を発表したという非難はまったく的外れである。」というふうに書いておられますね。

 記憶しておりません。(P218)

(松村高夫編『<論争>731部隊』所収) 


家永教科書裁判・秦郁彦証言(控訴審)

○次に、「太平洋戦争」の記述についてお聞きします。まず、あなたは、原審の証言の二八項で「『新しい侵略者である米軍と軍事的結託を続けている背徳的行為』という表現があります。この本は、後にアメリカで英訳版が刊行されておりますけれども、以上の二点は英訳版には入っておりません。」というふうにおっしゃっておりますね。


 はい。


○この英訳版の中に、「新しい侵略者である米軍と軍事的結託を続けている背徳的行為」という趣旨の文章が入っていることをあなたは御存じありませんか。甲第七一三号証の二四〇ページです。


 これは後で気が付きました。


○先程あなたが御証言になっているから前提事実は飛ばしますが、家永さんの「太平洋戦争」の一二ページに、池田ロバートソン会談についての記述がございますね。

 はい。


○この記述の(13)の注を、あなたは原審でお読みになっていないということだったですね。(P218)

 読んでないとは申しておりません。


○あなたはこの点について、四八項の途中から読みますが、「注の(13)というのが付いておりますけれども、この注記はお読みになりましたでしょうか。」「注記は、読んでおりません。」と。これ以外に理解のしようがありますか。


 これはイエスかノーかで答えろと言われたので、中身については記憶していないという意味で申し上げたんで、実際には読んでいるということです。これは後で気が付きました。


○そうすると、あなたは、「戦後の歴史教育」という家永さんの本の中で、家永さんが当時、朝日新聞の会談の議事録と宮沢さんの論文を突き合わせているということは御存じですね。


 知っています。(P219)



(松村高夫編『<論争>731部隊』所収) 


家永教科書裁判・秦郁彦証言(控訴審)


甲第二四五号証の一を示す

○一七五ページを見てください。あなたは原審の三四項の証言で、蘆溝橋事件の第一発について、蘆溝橋事件の第一発は確定していないにもかかわらず、ここの部分で簡単に片付けて結論を出しているというふうにおっしゃいましたね。


 はい。


○甲第二四五号証の一の一七五ページの一行目から、「かつビルマ方面軍所属第一五軍司令官牟田口廉也は、蘆溝橋事件の際の現場の連隊長であったところから、『蘆溝橋で第一発を撃って戦争を起したのはわしだから、わしがこの戦争のかたをつけねばならんと思うてをる』といった功名心にかられ、四四年三月、イムパール攻略作戦を強行した。」というふうに書かれておりますね。分かりますね。
(P219-P220)

 (うなずく)


○ここの文章は、蘆溝橋事件に関する記述ではなく、イムパール作戦についての記述ではありませんか。

 まあ、そうでしょう。


○そうだとすると、ここで家永さんが蘆溝橋事件について結論を出しているなどということは理解できませんね。

 それはどうでしょうか、一概には言えないと思います。


○かぎ括弧を付けた場合にはその人の見解であり、地の文章の場合には判断になり得るということの区別ぐらいは、あなたはできるでしょう。


 一応そういうふうに理解しています。(P220)

(松村高夫編『<論争>731部隊』所収) 


家永教科書裁判・秦郁彦証言(控訴審)

○そういうふうに言うなら結構です。次に、ハバロフスク公判記録についてお聞きします。あなたは原審での証言では、特移扱ということについて、内容は具体的に記憶ありませんでしたというふうに九七項で答えていますね。


 (うなずく)


○ところで、「正論」では、「特移扱ニ関スル件通牒」というのを引用しながら、あなたは書かれておりますね。
(P220)

 (うなずく)


○この特移扱というのは、七三一部隊にとっては人体実験の材料の確保という意味で、非常に重要な史実ではありませんか。

 そうだと思います。


○あなたは一方、九四項で、ハバロフスク軍事裁判については何度も読みましたとおっしゃっていますね、この記録を。


 はい。


○それでも、当時、あなたは記憶の喚起もできなかったんですね。

 いや、実は写りが悪くて、特移扱というのは読めないんですね。これはこう書いてあるんだという予備知識を持って見ると読めなくもないというようなことなんですね。


○じゃあ、こういうふうに聞きましょう。あなた、三〇年来、七三一部隊についての研究を続け、しかも、これが公開された史料の第一号であるというふうにおっしゃっていて、その中の「特移扱ニ関スル件通牒」ですね、写真版になっています。これを具体的に解読しなかったんですか、当時。


 写真版の写りの悪いのを、想像によって分析をする、推定をするということはできるだけ避けたほうが安全だと思うんです。


甲第二六七号証を示す

○「『特移扱』ニヨリ」云々という説明文がありますね。
(P223)

 この説明文はあります。しかしながら、原本であるということの証拠としては、これはほとんど読めないんですね。写真版の字の写りが悪くて。ですから、私は、証拠になり得ないということです。


○ハバロフスク裁判の中で、多くの人たち、例を挙げましょうか。例えば、証人橘、証人倉員、この人たちがこの特移扱について証言をしているのをあなたはお分かりにならなかったんですか。


 ハバロフスク裁判における陳述については、先般来申し上げているように、極めて信頼性については疑問があるという目で昭和五八年当時までは見ておりました。


○そうしたら、こういうふうに聞きましょう。三〇年来研究している段階にもかかわらず、この「公判記録七三一細菌戦部隊」という史料についての写真版の特移扱について、他の研究者その他とも、具体的にこれは何だろうということで相談したこともないし、確認したこともないと。だから、出なかったというふうに聞いてよろしいですか。


 そういう質問には大変お答えしにくいと思いますね。(P222)


(松村高夫編『<論争>731部隊』所収) 


家永教科書裁判・秦郁彦証言(控訴審)

○結構です。あなたの原審の証言、六〇項で外国人の捕虜について聞かれていまして、その上で六四項であなたは、ロシア人のマルタの存在について「ハバロフスク裁判で、それに対する被害者の言及がないからであります。」というふうにお答えになっていますね。


 はい。


○甲第二六七号証によれば、ロシア人のマルタについては、川島の尋問三〇四ページ、田村良雄四五二ページ、倉員四八〇ページ、ここでロシア人のマルタについての供述があるんですが、あなたはこの原審での証言当時知っていなかったんですか。(P222-P223)

 疑わしいと。いるかもしれない、いないかもしれないという立場で証言しておりました。


○「ハバロフスク裁判で、それに対する被害者の言及がないからであります。」と言っているんですよ。この記録の中に、私がざっと読んだ中でも三人出てきたんですよ。

 そうでしょうか。デムチェンコという兵士の名前は出てまいります。しかし、これはいかなる兵士か、また、なぜ日ソ中立条約下の満州国にソ連の兵士がいたのかと、そういう辺りが非常に疑問なんですね。(P223)


○ハバロフスク裁判については、原審の証言では、非公開でまとめられた記録とおっしゃっていますけれども、まず、具体的に非公開というふうにあなたが断じた根拠は何かあるんですか。


 私が非公開という意味は、西側の自由なるジャーナリズムなどに公開をされているという意味でありまして、ソ連のような体制下において行われている公開というものは、これはどこでも公開とは認めないんじゃないでしょうか。


○最近のいろんな史料によれば、公開で市民の関心が集まって、市民が傍聴したというふうに書かれているんですが、そういうことは当時御存じなかったですね。

 昭和六二年当時はだれも知らなかっただろうと思います。(P223)

(松村高夫編『<論争>731部隊』所収) 


家永教科書裁判・秦郁彦証言(控訴審)

○次に、「悪魔の飽食」についてお聞きしたいんですが、まず、「悪魔の飽食」では、七三一部隊の要図、あるいは組織概要などが明らかにされておることは御存じですか。

 はい。


甲第七一七号証の三を示す

○この上段は、「新版 続・悪魔の飽食」の二三ページ以下で、森村氏が組織体をいろいろ聞いて明らかにしたという部分ですね。

  はい。


○下段は、一九四七年一二月一二日付の「細菌戦調査に関する概要報告」という、一一四ページ以下で書かれている内容を一覧表にしたものです。これを見ますと、比較しますと、この「細菌戦調査に関する概要報告」では、石井中将、北野少将を筆頭として、班長クラスが八名聞かれているんですよ。お分かりになりますか。


 はい。


○これを見ると、このレポートは、あなたは上級隊員の調査が必要であるということを原審の証言でおっしゃっていましたけれども、上級隊員の多くの方々を調査したものだということは、この対照表を見ても一見して分かりますね。


 これは十分だと思います。


○これだけ調べれば十分でしょう。

 名前という点だけですよ。(P224)


○この下段の真ん中辺、「オカモトコウゾウによれば八百五十件の標本記録があり、有効な資料を備えた四百一件と、資料不備な三百十七件がある。またオカモトは五百件以下をイシカワがハルビンから持ち帰ったと疑っている。」というふうに、標本についての記述がございますね。


 はい。


○それから、「キャンプ・デトリックMd基礎化学チーフ」というふうに書かれている以降、「個人面接調査の結果を次のように述べている。」ということで、いわば各論が具体的にここで簡潔に要約されて述べられておりますね。

 はい。


○この史料だけを見ても、この当時、多くの上級隊員をアメリカ軍が調査し、そして、その調査の結果を報告しているということが容易に読み取れますね。


 オリジナルの文書についての言及がないんですね。ですから、これはいかなる性質のものであるのかということが分かりません。それから、なぜ人名が全部片仮名なのか。


○さっきの括弧書きを見てください。これは、キャンプ・デトリックMd基礎化学チーフ、こういう肩書の方が書かれたものであるというふうに十分理解できますね。


  これだけでは、十分とは必ずしも言えませんね。


○この当時、七三一部隊の調査をしていたアメリカの機関というのは、まさにこのキャンプ・デトリックではありませんでしたか。(P225)

 そうだと思います。


○あなたは、これを見て、キャンプ・デトリックの資料ではないかということで興味を示しませんでしたか。


 ええ。したがって、これは原文を入手して、何とかチェックしたいと。それから、ここに出てくる片仮名名前の人を、実在の日本人の人名と照合して、漢字の名前を入れていく。まず、そういう作業から始めるということで、これは非常に有力ないい手掛かりであります。研究のためには非常にいいデータです。(P226)

(松村高夫編『<論争>731部隊』所収) 


家永教科書裁判・秦郁彦証言(控訴審)

○あなたは原審の証言では、証言する前にこの「悪魔の飽食」をお読みになったというふうにおっしゃっていますね。

  はい。


○あなたは今まで確実な史料や証言を得るのに菅労していたと。これはあなたがお書きになった「諸君」ですが。また、だれがフェル・レポートを見つけるかという研究者同士の競争みたいなものがあったと。

そういうふうにして、あなたのほうでこういう史料を追求しているという御証言があるんですが、これをお読みになって、この点について、これはどういうものであるかということについて、森村氏なりだれなりに問い合わせしたことはありませんでしたか。

  問い合わせはしておりません。


○当時森村氏は、この史料について、多くのジャーナリストその他に対して、言われれば出したようなんですが、やりませんでしたか
。(P226-P227)

 森村さんにはやっておりません。森村批判をその前に論文も書きましたし。


○それから、このヒル・レポート、一二月一二日付のこの報告書ですが、これは当時、アメリカの公文書館に収められたものであるということは分かりましたか。

 公文書館であるかどうかということは、必ずしも私は明確にしておりません。キャンプ・デトリック自体ということもあり得るわけです。


○なぜ名前が出てないかということについては、実は、森村氏のこのヒル・レポートについては名前の部分だけが消されているんですよ。このヒル・レポートの原文は、名前が消されたものもあるし、消されてないものの二種類、アメリカの公文書館から出ているんですが、そのことはあなたは御存じありませんか。


 二種類あるということは知りません。私が持っているのは、素直に名前が入っております。(P227)

(松村高夫編『<論争>731部隊』所収) 


家永教科書裁判・秦郁彦証言(控訴審)

○あなたは、森村さんの「(悪魔の飽食)ノート」をお読みになりましたね。

 一応読んだ記憶はあります。


○この中で、パウエル論文の要約が書かれているのは御存じですか。
 
 パウエル論文の要約であるかどうかということは確認しておりません。


甲第六九一号証を示す


○一八八ページ以下、パウエルとお会いして、反訳権も得て、ここに大要を要約したということを書いてあるんですが、そのことはあなたは御存じないですか
。(P227-P228)

 出た当時に読んだかどうかということは記憶が明確ではありませんが、今では読んだということが言えます。


○じゃあ、原審の証言当時はどうですか。
 
 記憶しておりません。


○一九四ページ以降を見てください。ここに「"格安"な買い物だった」という小見出しで、「エドウィン・后Ε劵詛郢里蓮弃勝垢函△修海らヒルについての内容が出ておりますね。


 はい。


○同じく一九四ページの後ろのほうに、「ヒルとビクターは、この時点ですでに米国のために(七三一の)細菌戦資料をあつめ、報告書作成にあたっていた数名の日本人専門家とインタビューした。太田キヨシ博士は自分がおこなった炭疽病実験について」云々と、要するに、これの報告の内容が具体的にヒルから報告されているという趣旨の紹介が載っているんですが、当時あなたは気が付きませんでしたか。
 
 明確に記憶しませんけれども、森村さんの著作については私はうのみにできないと、基本的にはそういう態度でありますから、したがって、こういうものがあったときには、原典、原文を入手して、自分なりにチェックしようと、こういうふうに考えるわけです。

 そういう意味では、森村さんの著作も非常にいい参考資料になると思います。(P228)

(松村高夫編『<論争>731部隊』所収) 


家永教科書裁判・秦郁彦証言(控訴審)

○私が言いたいのは、三〇年来研究して、上級隊員の証言がほしい、それから「諸君」では、確実な文献史料や文書史料や証言を待るのに苦労していたと、そういうふうにおっしゃるから、それだったら、なぜ、すぐさまあなたのおっしゃる史料を取り寄せようという努力をしなかったんですか。(P228-P229)

 これは学術的に処理されていないために、入手に非常に困難があるわけですね。

 ですから、学術論文では、ほかの人がすぐ検証できるために、利用できるように、例えばボックスのナンバーとか、そういうものを入れるのが常識になっております。

 しかし、これだと電報の番号しか入っていないんで、こんなものは探しょうがないわけです。

 したがって、大抵の人はみんな、相当時間が経ってから入手しているわけです。それから、これ自体も原文とは言えないわけですね。


○大綱ですよ。ですから、あなたは原文だ原文だとおっしゃるから、それだけ研究しているなら、すぐさまアメリカの公文書館に問い合わせをして、具体的なところにどうして当たらなかったのかという質問をしているんです。


 当たった結果、入手したわけです。少し遅れましたけれども。


○あなたは、当時、パウエルが書いた論文が、国会図書館その他、東大法学部、東大の生産技術研究所等に入っていたことは知っていますか。


 東京大学中央図書館には確かないという話なんですね。技術研究所にもないんじゃないでしょうか。私が調べた限りでは、東大には法学部にありますね。生産技術研究所にはないようです。(P229)


○私どもは、当時のあれを全部調べたんですがね。

 じゃあ、やめたのかもしれません。いずれにしても、全国で三七箇所ですね。(P230)
 
(松村高夫編『<論争>731部隊』所収) 


家永教科書裁判・秦郁彦証言(控訴審)

控訴(附帯被控訴)代理人(小林)

○パウエルの論文にミスが多いという抽象的な御指摘がありましたけれども、そういう内容の論文が公にされたことは今までございますか。

 ありません。


○掲載雑誌、オーソドックスなものではないという御指摘ですが、これは学術研究者の間で学問的なものとは評価されていないと、そういう意味ですか。


 いわゆる正統的な学術雑誌ではないと。つまり、各アトミック・サイエンティストたちが自分の研究に必須として考えている、いわゆるオーソドックスな雑誌ではないというふうに理解しています。


○私どもの調査によれば、証人の御勤務先の大学には入っていないようですが、例えば国会図書館に第二号から全部入っていることは御存じですか。

 国会図書館にあることは知っております。
 

○それから、御出身の東京大学の総合図書館にも全部入っていますが、御存じですか。

 それは、法学部が取っていると私は聞いております。


○法学部のほかに、総合図書館にも入っているようですが、御存じありませんか。

 それは、法学部の図書館へしばらく置いた後に総合図書館に集めるというシステムがありますから、それかもしれません。


○京都大学の各学部、それから各研究所でも網羅的に取っているようですが、御存じですか。

  それは知りません。私の調査では、多分取ってなかったと思います。(P231)

(松村高夫編『<論争>731部隊』所収) 


家永教科書裁判・秦郁彦証言(控訴審)

○本件検定当時、昭和五八年ごろには、オーラルの方法がまだ市民権を獲得していなかったと、こういうことをおっしゃいましたけれども。

 必ずしもということです。


○必ずしも取っていなかったということですが、その趣旨は、当時、オーラルの手法が学問的な方法としてまだ通用性がなかったと、こういう意味じゃないですね。通用性は既にありましたね。


 それは非常に答えにくい質問なんですけれども……。


○オーラルの方法が、昭和五八年当時、学問研究の方法として通用性を持っていたか、持っていなかったかと、そういう質問です。


 学術的には、それだけでは通用しないのが普通だと思うんです。


○それだけではという意味が私には理解できないんですがね。開いてきたことをうのみにすると、こういう学問研究は存在しますか。どなたか、そういうことをやっている人がいますか。

 まあ、新聞記事なんかでは、そういうのが時々あるんじゃないでしょうか。


○それは学問じゃないでしょう。(P231)

 ですから、学術的にはと私は申し上げているんです。ですから、学術的にはあり得ないと思いますが。(P232)

(松村高夫編『<論争>731部隊』所収) 



家永教科書裁判・秦郁彦証言(控訴審)

○証人御自身、「日中戦争史」という著書を、昭和五八年よりはるか前にお出しになっておら
れますね。
 
 はい。


○この書物は、オーラルの方法を非常に重視しているということが一つの特徴になっているというふうに聞きましたけれども、いかがですか。

 そう言われると不本意なんでありますけれども、私はあくまでもオーラルは従だと思っています。


○お話の中に、何々の何々はうのみにできないというお話がしきりに出てくるんですが、うのみにできるような、あるいは、うのみにすべき学術研究書なるものは、存在しないんじゃないですか。いかなる作品に対しても、常に疑いの目を向けて批判を加えていくと、それが学問の方法でしょう。


 一概にそうも言えないんじゃないでしょうか。読んだ瞬間に、これはパーフェクトな立証だというようなことは、数学の論文なんかではよく私は聞きますけれども。


○証人のお話を伺っていますと、何か世の中にその記載内容をうのみにできる学術研究書があるみたいに聞こえるんですけれども、そういうことはありませんね。


 ですから、今申しましたように、そういうものもあるだろうと思います。(P232)


(松村高夫編『<論争>731部隊』所収) 


家永教科書裁判・秦郁彦証言(控訴審)

控訴(附帯被控訴)代理人(渡邊)

○「消えた細菌戦部隊」の件なんですが、「消えた細菌戦部隊」の中で、流行性出血熱及び凍傷についての人体実験について、これを例証していますね。


 (うなずく)


○この「消えた細菌戦部隊」の本文の中で、例えば日本病理学会会誌の三四巻の「流行性出血熱の病原体の決定」という論文を挙げて、文中で引用をして、それに対して論評を加えておりますね。


 いや、論証したかどうかは……。


○凍傷実験についても、吉村寿人、この方の論文を本文中に挙げて論評しておりますね。

  はい。


○昭和五八年当時、公開された文献で、七三一部隊が細菌戦部隊であったこと、それから捕虜を人体実験にしたこと、これを否定した文献があったでしょうか、なかったでしょうか。あなたの御記憶の範囲内で結構です。


 記憶ありません。

(以上 横山美裕記(速記者)

(松村高夫編『<論争>731部隊』所収) 


(2020.9.8)


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