「破傷風毒素並芽胞接種時に於ける
筋『クロナキシー』に就て」


『七三一部隊作成資料』より

「破傷風毒素並芽胞接種時に於ける筋『クロナキシー』に就て」

(指導 永山中佐)

陸軍軍医少佐 池田苗夫
陸軍技師    荒木三郎

第一章 緒論

「クロナキシー法」は■脊髄又は末梢神経疾患の種類、程度、経過及び予後に関し従来慣用せらるる神経診断法に比し遥に精細適確なる断定を与ふるものなるは既に多数研究者(永井、宮本、小澤)により発表せられたる所なり

而して此の診断法に於ては筋肉に於ける所謂正常「クロナキシー」を標準として診断するものなるが故に正常値の吟味は極めて緊要なり(P45)

余等は破傷風「毒素」「芽胞」を被験体足背部に接種せる場合に発症時における従属筋「クロナキシー」を測定し被験体の可検筋肉の毒素、芽胞接種、予防接種実施の場合等に於ける値の変化を比較せり(P46)

(『七三一部隊作成資料』所収)


「破傷風毒素並芽胞接種時に於ける筋『クロナキシー』に就て」

第二章 実験材料及び実験方法

実験材料は

  毒素一、〇〇〇MLD  三例 (二七五・六六五・九九〇)
  再接種(予防接種実施) 一例 (一〇二六)
  毒素  一〇〇MLD   四例 (五一七・三四〇・六九一・九七〇)
  毒素    一〇MLD   二例 (九七三・五九五)
  芽胞三〇CC  一例(九九一)   五〇CC 一例 (九八五)

対照 毒素 一〇〇〇MLD  一〇〇MLD  一例
対照 芽胞 三.〇CC  一例(P46)

以上毒素九例、芽胞二例、対照毒素一例、対照芽胞一例に就き咬筋鼻筋、眼輪筋、胸鎖乳頭筋、潤背筋、肋間筋、前脛骨筋、腓腸筋等につきそれぞれ「レオバーゼ」(r)並び「クロナキシー」(6)を測定し大体接種後三乃至一〇日後に至る発症直前より発症後に症状憎■するに従ひ筋「クロナキシー」を測定し以上各従属筋「クロナキシー」の刺戟伝導の変化率により神経機能の昂進か減退かに従って該神経支配下にある筋肉機能の昂進が上行性なるや下行性なるやを探求せんと試みたり(P47)

(『七三一部隊作成資料』所収)


「破傷風毒素並芽胞接種時に於ける筋『クロナキシー』に就て」

人体に於けるRHの測定法

「クロナキシー」を求むるには先づRHを測定するが定法なり

茲に於て先づ準備行為として整流電圧調節器の把手を廻はし直流二〇〇Vを送り動物切替器の把手を人体に向け時値基流切替器を基流に向け人体用抵抗切替器を一一〇〇〇Ωに向け置く可し、最後に整流器の盤上にある電源開閉器を閉じよ、次に検者は第一に患者(被検者)の腕に於て一つの刺戟点を検出せざる可らず(P47-P48)

之れが為にロのナ側に連絡せられたる板状不偏電極を〇.四%の食塩水にて■潤したるものを患者の胸部に圧迫をして後患者の腕をとりてラピック氏刺戟導子を一々食塩水に浸したるものを用ひて導心刺戟点の探求に専念せよ。

故に器械の操作は助手に委託するを至当とす。

尚電極は体温のため次第に乾きて電流の通過を防止するを以て度々取り出して食塩水にて■潤するを要す。刺戟点を発見することが仲々経験を要すれども次の順序に従って操作するものなり。

(1)RHの値を測定したる直後にトの把手を時値に向け換へる時乃ちCHの時の電圧計の指針はRHの場合の二倍の電圧を指示する様に設計せられ居れども 尚幾分の誤差は免れざるを以て 之の場合にはルの把手を動かして丁度電圧計の指針が正確にRHの場合の二倍になりたることを確認し 此の位置にルの把手を停止す、一日以上の訂正を行ひたる上は測定の終了する迄はルの把手には手を触るる可らず(P48)

此の時にラビック氏電極を用ひて患者の腕上を各部に亘りて一番強く刺戟を起す点を発見せよ。

之の点が乃ち求むる処の刺戟点なり、勿論之の間堪へず充放電鍵を上下し居るを要す

求められたる刺戟点より電極を離す可らず

次にトの把手を基流に向け直すときはワの指針は当然六〇Vを指示す 茲に於て再びリ及ヌ等を除々に調節して同刺戟点に於ける最小刺戟度を検出し其の場合に於けるワ及ヨの指針を読みて記録せよ。之がRHの値なり(P49)

(『七三一部隊作成資料』所収)


「破傷風毒素並芽胞接種時に於ける筋『クロナキシー』に就て」

人体に於ける時値(CH)の測定法

RHを求めたる同刺戟点に於けるCHの値を検出するにはトの把手を時値に向けリ及ヌ等には毫も手を触れずに単にレ、ソ、ツ、ネの四者の調整のみによりてRHの検出の節に会得したると全く同一程度の刺戟値を求め得たりとせば之のレ、ソ、ツ、ネの読みの和が求むる処のCHの値なり(P49)

(以下略)

(『七三一部隊作成資料』所収)


「破傷風毒素並芽胞接種時に於ける筋『クロナキシー』に就て」

第三章 実験成績

芽胞三.〇CC右足踵皮下注射の場合(九九一)の例に観るに「レオバーゼ」は五〇乃至六〇Vにして症状発現当初に於ては咬筋(正常値は〇.三乃至〇.四)の「クロナキシー」は正常値に比し極めて大にして接種後八日目にして〇.八となり九日目頃に至り即ち死に近づくに従いて著しく小なる値となり〇.〇〇九にて著明の攣縮を示すに至れり

次に眼輪筋に於ては正常〇.七乃至一.〇〇に比較し発病当初は「クロナキシー」の値は極めて大にして三.〇〇後に漸次小なる値となり 八日目には〇.一八に迄減少し死亡の直前即ち九日、十日目には極めて小なる値となり〇.〇八更に〇.〇一五となり 従って筋は益々敏捷となり「トーヌス」も高まるるなり

毒素接種による場合は経過極めて電撃性にして試験期間極めて短く二乃至三回に過ぎざるも接種後一般に「クロナキシー」値極めて大なる値を示すも死の直前に至り何れの筋も殊に顔面於ける咬筋、鼻筋眼輪を始めとし潤背、肋間、腓腸各筋に於ては〇.三乃至〇.〇〇三の如き極めて小なる値を以て既に攣縮を惹起する筋肉神経の興奮性が高まる傾向を認めたり(P52-P53)

(『七三一部隊作成資料』所収)


「破傷風毒素並芽胞接種時に於ける筋『クロナキシー』に就て」

第四章 総括並考按

従来の電気診断学にありては神経筋肉の電気的興奮性の変化を量的(■■刺戟の大小)並に質的一攣縮様式及形態の変化)に検査せるも 時値測定法は〇.〇〇一秒以下の短小なる時間に電流を断続する装置により神経筋肉の興奮に必要なる電流通過時間の大小を以てする方法にして 従来の最小攣縮値(K■■■を起すに要する最小電流)をレオバーゼとし 其れの二倍の電流強度を以て最小攣縮を得るに必要なる最小電流通過月間をohronazle(0.001秒=aにて表はす)と言ひ 筋肉神経の興奮性の変化を此の「クロナキシーメートリー」に依り一層精細に測定せらるるに至れり(P53-P54)

然れども器械が精密なるため諸種の条件に影響せられ臨床的応用には種々の困難あり

今回の実験に於ては初め咬筋、眼輪筋痙攣最も早く現はれ 肋骨筋は割合に遅く 潤背筋、直腹筋、腓腸筋前脛骨筋等に至りては攣縮著明ならず 症状増進するも攣縮此れに併行せざる傾向にあり

顔面筋殊に咬筋、鼻筋、眼輪筋は概して毒素芽胞接種後二−三日間は「クロナキシー」値は大にして症状進攻するにつれ値も小となり死の直前には極めて小なる「クロナキシー」値を現わすものなり

即ち接種後発病迄は従■筋は一時麻痺状態となり 而る後病状重篤となるに従ひ興奮性高まり死の直前にては驚く可く小なる「クロナキシー」値にて 既に攣縮を惹起する程にRefsbarbeit(?)となるものなり(P54)

(『七三一部隊作成資料』所収)


(2015.12.6)


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