吉村寿人講演『凍傷に就て』
一、緒言
満洲に於ける凍傷は内地に於ける所謂凍瘡とは異り峻烈なる寒気の為に組織凍結し、屡々壊死を来し、従って罹患部の脱落を来す等の極めて惨酷なるものにして 皇軍は日清日露、シベリヤ出兵、満洲事変等過去の諸戦役に於て苦き経験を嘗めたり
歴史上有名なるは「ナポレオン」(一八一二年)軍の凍傷にして「モスコウ」出発時十余万の兵員は「スモレンスク」にて四万二千に減ず。
又今次欧州戦の初期に行はれたる「フィンランド、ソ連」の戦闘に於て「ソ連」は凍死凍傷に悩されて長く、「フィンランド」を征し得ざりしは世人のよく知る所なり。
厳寒地に於ける作戦は凍傷を征服せざれば成功し得ずと言ふも過言にあらざるなり。
斯くの如く凍傷は軍衛生上の重大問題たるに止らず、北満の移植民の医事衛生としても看過し得ざる問題なり。(P228-P229)
本官は年来聊かこの問題に関心を有するものにして、ここに凍傷の病態生理学的知見を述べ、その予防並に治療に対する実地医家並に軍医諸官の参考に供せんとす。(P228)
(『七三一部隊作成資料』所収)
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