「軍事警察」より


「続・現代史資料 6 軍事警察」所収資料



<第十軍法務部陣中日誌>

11月13日

三、午後二時より小川部長は加藤録事を随へ金山宿営地内を視察したり 其の状況左の如し

金山の商店街は其の中央を流るる水路(クリーク)の両側に帯状に軒を並べ其の大部分は兵燹の為爆弾焼燬され廃墟と化し今尚余燼ありて異臭を放つ、住民は殆んど避難したるも逐次復帰しつつあり 宿営地内の軍紀風紀は概ね良好なるも尚暴行、掠奪等の跡なきにあらず、之等を未然に防遏するの要ありを認む

(P34)

11月28日

二、午前十時小川部長は軍憲兵隊に赴き金山に於て発生せる殺人、同未遂、強姦被告事件に関し同隊長上砂中佐に連絡し尚同事件捜査に関し打合せを為す

(P40) 

12月1日

<被告事件の受理>

四、午後七時軍憲兵隊より左記被告事件捜査報告を受く

被告人 第十八師団歩兵第五十六聯隊第十二中隊

軍用物毀損敵前逃亡 後備役陸軍歩兵一等兵 高□□□□□

犯罪事実の概要

被告人は昭和十二年十一月五日李宅に上陸後間もなく所属隊を見失ひ爾後之に追及すべく前進中支那婦人を強姦し其の儘之を帯同して松蔭鎮に到りたるが、同所に於て某将校の為怪まれ監視兵を附せらるるや同日八日午後八時頃処罰を恐れて逃走し、同所空家に潜伏中翌九日午前八時変装の為著帯の官給品、軍衣、同袴一着及実包百発在中の弾薬盒を同空家内に投棄したるものなり
(P45)

12月2日

四、左記の者に対する各頭書被告事件軍兵站憲兵より送致を受け直に捜査報告を為し長官より予審請求命令ありたり

被告人 第六師団歩兵第十三聯隊第三大隊小行李
殺人、同未遂、強姦 予備役陸軍輜重兵特務兵 島□□□

被告人 同聯隊第十二中隊
強姦           予備役陸軍歩兵上等兵 田□□□

被告人 同聯隊第九中隊
強姦           予備役陸軍歩兵一等兵 鶴□□□□

被告人 同聯隊第十二中隊
強姦           予備役陸軍歩兵伍長 内□□□□(P45)

犯罪事実の概要

被告人島□及び田□は昭和十二年十一月二十四日共謀の上強姦の目的を以て金山附近に於て支那婦人五名を拉致し来り 被告人鶴□及内□は其の情を知り乍ら各一名右婦人を受取り同日夜島□、田□、鶴□及内□は各自一名宛右婦人を強姦し、尚島□は右婦人拉致の際所携の銃を以て支那人三名を死傷せしめたり
(P45)


五、左記被告事件軍兵站憲兵隊より捜査報告を受く

被告人 後備三方山砲兵一等兵
殺人            辻 □□

犯罪事実の概要

被告人は嘉興に宿営中昭和十二年十一月二十九日午後五時頃支那酒に泥酔し支那人に対する強き敵愾心に駆られ之を憎悪するの全所携の銃剣を以て通行中の支那人三名を殺害したるものなり

12月8日

二、左記被告事件軍兵站憲兵隊より捜査報告を受く

被告人 第六師団歩兵第二十三聯隊第二機関銃隊
強姦傷害 後備役陸軍歩兵一等兵 池□□□□

犯罪事実の概要

被告人は松江に宿営中

(一)昭和十二年十一月二十八日深夜同所北門附近某民家に支那人の出入するを怪み之を捜査せんとして某家屋内に立入りたる際、偶々寝室に於て支那婦人(当三十年)を認むるや悪心を生じ之を強姦し

(二)更に捜査を継続して他の家屋に立入りたるところ胸に銃創を負へる支那人を認むるや之れ敗残兵なりと直感したるが、同人が逃去らんとしたるを以て威嚇の目的にて所携の日本刀を抜きたるが同人が驚愕の走去らんとしたるに依り之が逃走を防ぐ為同人の前額部に軽傷を与へ其の物音を聞付け支那人数名駆付け来りたるを以て身の危険を感じ之を追払はんとして右日本刀を以て先頭の一人に斬付け軽傷を負わせたり(P50)

陣中行事報 第六号 柳川部隊法務部

<十二月二十一日 晴 湖州 被告事件の受理>

被告人 第十八師団歩兵第百二十四聯隊第四中隊
殺人掠奪 後備役陸軍歩兵上等兵 浅□□□

犯罪事実の概要

被告人は浙江省湖州に宿営中

第一、昭和十二年十一月二十九日、同僚と共に野菜徴発を思ひ立ち附近の桑畑中に栽培しありたる野菜約五貫目を抜取り(P60)

第二、被告人は前記野菜を洗滌すべく附近の農家に到り居合せたる支那婦人三名に之を洗滌せしめんとしたるに、其の中の一支那婦人は早口に何事かを放言し野菜の洗滌に応ずる風なかりしを以て、日本軍人を軽侮するものなりとし所携の歩兵銃を以て同女を射殺したり(P60-P61)


被告事件の受理

左記被告事件軍兵站憲兵隊より捜査報告を受け法務局へ事件受理報告を為す

被告人 第十軍後備歩兵第四大隊第四中隊

(略)

犯罪事実の概要

(一)岡□主計少尉は野戦衣糧廠金山支部に勤務中の処、自己の宿舎附近に多数の支那人雑居し或は不穏の言動を為し或は官品を窃取する等の様子ありたるより、不安に駆られ同所警備隊長吉□少尉に対し其の事情を訴ふる処あり(P67)

(二)依て吉□少尉は昭和十二年十二月十五日、部下の兵二十六名を指揮して右支那人二十六名を捕へ之を同所憲兵隊に連行せんとしたる途次、逃走を企ふる者ありたるにより右支那人を鏖殺せんとの意を生じ(P67-P68)

(イ)内□伍長をして右支那人二名を、小□上等兵をして三名を夫々斬殺せしめ
(ロ)高□伍長、金□、菅□、金□、石□、志□、各上等兵、鈴□、菊□、茂□、岡□、斉□、大□、鵜□、仁□、山□各一等兵、七□□□□、長□□□、大□各二等兵(合計二十名)をして右支那人二十一名を射殺せしめ
(三)渡□伍長、前□、石□、椎□各一等兵、上□通訳は現場に在りて右支那人の捕縛又は見張を為し、以て右殺人を幇助したるものなり(P68)



<被告事件の受理>
被告人 第六師団工兵第六聯隊第十中隊
殺人強姦脅迫 後備役陸軍工兵一等兵 地□□□□

犯罪事実の概要

被告人は上海南市に宿営中

(一)昭和十二年十二月十四日夕食の際、飲酒酩酊の上上海南市警備隊雑役夫支那人某宅に到り同人の妻(二十八年)を所携の歩兵銃を以て脅迫し同女を強姦し

(二)同月十七日昼食の際、飲酒酩酊し同僚二名を連行して前記雑役夫宅に赴き同僚を戸外に待たせ同人妻を強姦せんとして先づ居合せたる夫を所携の歩兵銃を以て射殺し、同人妻を強姦し

(三)同日自己の宿舎に横臥休憩中の同僚二等兵某に対し「随行すべし若し肯かざれば射殺すべし」とて所携の歩兵銃を同人に向けて脅迫したり
(P68)

1月2日

被告人 第百十四師団工兵第百十四聯隊第一中隊
強姦  予備役陸軍工兵一等兵 高□□□□

犯罪事実の概要

被告人は湖州に宿営中、昭和十二年十二月三十一日午後二時三十分頃、湖州城内苔粱橋附近に於て同所通行中の支那女児(当八年)を現認するや、甘言を弄して附近の空家中に連行し姦淫しつつあるを憲兵に取押へられたるものなり
(P75)

1月5日

二、左記被告事件軍兵站憲兵隊より捜査報告を受け法務局へ事件受理報告を為す

被告人 第六師団歩兵第十三聯隊第六中隊
傷害強姦 陸軍歩兵一等兵 古□□□

被告人 同聯隊第三中隊
強姦    同          川□□□

犯罪事実の概要

被告人両名は金山県金山に宿営中、被告人古□は

(一)昭和十二年十二月二十五日、野菜徴発の為金山北方約三粁の地名不詳の部落に赴きたる際、同部落某支那人の農家に於て氏名不詳の支那婦人(十八、九年)が被告人の勢威に畏怖し抵抗不能に陥り居れるに乗じ之を姦淫し

(二)同月二十七日、同じく野菜徴発の為金山県曹家浜に到りたる際、支那人約四十名群集し居るを認め右は自己が予て抑留せる支那小舟を奪取せむとして来れるものないと思惟し之を退散せしむべく所携の拳銃を以て群集に向ひ発砲し、因て支那人男一名の腰部に盲貫銃創を負はしめ

(三)同夜金山県師家楼の支那人農家に宿営したる際、夜半隣家に侵入し就寝中の支那婦人(三十二年)に対し暴力を用ゐて之を姦淫したり。

被告人川□は相被告人古□と共に前記支那人農(二字欠)宿営したる際同人が隣家に於て支那婦人を強姦したる旨聞知するや直に同家に到り所携の銃剣を擬して同女を脅迫畏怖せしめ之を姦淫したり
(P77)
 
被告人 第十八師団歩兵第百十四聯隊機関銃隊
強盗、殺人、傷害 後備役陸軍歩兵一等兵 田□□□

犯罪事実の概要

被告人は所属隊と共に支那浙江省杭州に宿営中昭和十三年二月十八日、杭州市外日本租界附近部落に於て自己に対し咆哮せる犬を狙撃し、因て附近に居合わせたる支那人某の足部に命中受傷せしめ、次で順次二軒の支那人商店に立入りて金員を強奪したる上支那人二名を射殺し、更に宿営地たる杭州に帰隊の途次支那人数名に出会するや之を脅迫して各所持する金品を強奪したる上之に対し発砲し、夫々受傷せしめたるものなり(P106)





<中支那方面軍軍法会議陣中日誌>

1月12日 晴 上海 中支那方面軍軍律審判規則中改正>

 中支那方面軍軍律審判規則中左の通改正す

昭和十三年一月十日 中支那方面軍司令官 松井石根

第二条 軍律会議は中支那方面軍、上海派遣軍及第十軍に之を設く

第三条 中支那方面軍軍律会議は上海憲兵隊管区内に在り、又は其の管区内に於て軍律を犯したる者に対する事件を管轄す
     上海派遣軍軍律会議は南京憲兵隊管区内に在り、又は其の管区内に於て軍律を犯したる者に対する事件を管轄す
     第十軍軍律会議は杭州憲兵隊管区内に在り、又は其の管区内に於て軍律を犯したる者に対する事件を管轄す
     中支那方面軍司令官は前三項の規定に拘らず、特定の事件に付之を管轄すべき軍律会議を指定することを得
(P128)

<1月22日 晴 上海>

一、笠原録事は午前九時三十分会報に出席す

要旨

1.最近警備区域内に於て故意に罪なき支那人を殺害し、或は共同租界西側にて我警備線外に於て泥酔し態度を乱し、外国人の為宣伝利用せられ軍の企図遂行に障害を与ふるものあり、各隊に於ては上海附近の国際上の複雑性は一兵の失態も一般的に重大なる影響を有するものなることを徹底せしめられ、些細なることにて国軍全般の利益を害せざる如く注意せられ度

2.最近滬西方面に於ける外国人住宅の垣根を破り薪炭となす者あるが如し、警備隊及憲兵に於て成るべく保護を加へられ度(P141)

中方軍令第一号

中支那方面軍軍律左記の通定む
昭和十二年十二月一日
中支那方面軍司令官 松井石根

中支那方面軍軍律

第一条 本軍律は帝国軍作戦地域内に在る帝国臣民以外の人民に之を適用す<但し中華民国軍隊又は之に準ず軍部隊に属する者に対しては陸戦の法規及慣例に干する条約の規定を準用す>

第二条 左に掲ぐる行為を為したる者は軍罰に処す
 一 帝国軍に対する叛逆行為
 二 間諜行為
 三 前二号の外帝国軍の安寧を害し又は其の軍事行動を妨害する行為

第三条 前条の行為の教唆若くは幇助又は予備、陰謀、若は未遂も亦之を罰す 但し情状に因り罰を減軽又は免除することを得

第四条 前二項の行為を為し未だ発覚せざる前自首したる者は其の罰を減軽又は免除す(P194)




軍律制定に関する意見

参謀部第一課

意見なし


参謀部第二課

左に該当する者は厳罰に処す

一、日本軍の位置、兵種、兵力、行動等を他に漏らしたるもの

二、流言蜚語を放ち治安を妨害せるもの

三、日本軍の布告文「ポスター」等の貼付を拒否妨害、毀損したるもの

四、便衣隊、密偵、兵器等を隠匿せるもの

五、混乱の機に乗じ掠奪暴行を敢てし罪を日本軍に帰せしめたるもの

六、治安維持を拒否し又は之に当れる支那人の行動を妨害せるもの

七、兵器を所持するもの(P195)



昭和十三年一月
柳川部隊法務部

戦地に於ける犯罪の予防について

三、掠奪の罪

本罪は物慾に捉はれて犯す場合、好奇心に駆られて犯す場合等原因には種々あるも畢竟敵国人の財産に対する尊重の念稀薄になりたると戦争中には斯る不正は容易に発見せられまいとの浅墓な考が動機の根本をなして居るのではないかと思はれる

由来戦争には不便不足は附物で困苦欠乏に耐へ忍ぶのは当然のことである 況や今次の聖戦の目的に鑑るときは無辜の民衆の財物を奪取することの如何に批難すべきことであるか一目瞭然である

本罪は直接相手方に暴行脅迫を加へて奪取せずとも例へば避難民の空家に入り公然奪取するときは犯罪成立する故其の点特に理解の行く様に説明し又随時私物の検査を実施し凱旋の際到底内地迄携行することの出来ぬ所以を附言したなら本罪防止上相当効果があるだろうと思ふ

尚奪取の機会に婦女を強姦したり人を死傷に致したりすると一層重く処罰せらるる 刑罰は死刑無期より一年以上の懲役となる


四、強姦の罪

本罪は一時の情慾に捉はれて犯す場合、異国人に対する好奇心より犯す場合、同僚に対する見栄より犯す場合等其の原因には種々あるも結局敵国婦人に対する貞操観念の稀薄と日本兵の優位を以てすれば如何なる不徳義も容易に実現出来且発覚する恐れもあるまいと云ふ気持が動機の根底を為すものであると思ふ(P200)

本罪も前同様今次事変に於ける皇軍の使命に思を致す時は其の行為が如何に不徳義のものであるか真に納得出来ることと思ふ(P200-P201)

本罪は又直接婦人に暴行脅迫を加へて姦淫せずとも既に兵威に怖れて抵抗不能に陥れる婦人を姦淫すれば強姦罪の成立を認める故其の点注意すべきである 刑期は二年以上の懲役となる


五、傷害の罪及殺人の罪

本罪は日本人同志の間で犯す場合と支那人に対して犯す場合とに様あるが孰れにしても戦地に於ける心理的変化の一つの現れとして犯す場合及飲酒酩酊の結果犯す場合が最も多い

長く戦地に在つて戦闘行為に終始して居る関係上人命に対する尊重の念が薄らぎ自然気分が荒くなり些細のことに立腹し其の結果斯る大罪を犯すに至るので兵に対しては宴会などを催すより随時宿舎に於て娯楽会演芸会等を催して気持ちを軟げ気分の転換を図ることが肝要ではないかと思はれる(P201)


方参二密第二八号

軍律実施上注意の件通牒

昭和十二年十月六日 北支那方面軍参謀長 岡部直三郎

今般方面軍司令官に於て軍律軍罰令竝軍律会議審判制規則を制定施行することに定められしに付之が実施上左記の諸件を貴隷(指揮)下各部隊に徹底せしめ置かれ度く依命通牒す

左記

一、軍律及軍罰令制定せられしを以て爾今支那国人(敵対行為をなす者及捕虜を除く)に対する事件は一切現地に於て処断することなく軍律会議に送付し該会議に於て審判処理せしむる事とす(P213)

二、支那国人以外の外国人に対する対□(ママ)事件に干しては外交問題となりたる場合我方の立場を有利ならしめる事肝要なるに鑑み出来得る限り確実なる物的証拠を蒐集確保し置くこと 緊急にして必要に応じ相手国に其の実証を提示し得る様準備し置くを要す(P213-P214)



(2008.6.22)


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