海軍大臣官房 『戦時国際法規綱要』
(八)国際法の遵守
(イ) 国際法は、正義に立脚し人道に基き多年の経験試練を経て成りたるものにして、各国の関係を円滑にし其の正常権益を伸展し、各国民をして平穏に其の運命を開拓せしめんことを以て目的とするものなり。
近時国際法特に戦争法規の価値を疑ひ、甚しきは之を無視することは敢て非議せらるべき行為に非ずと為すが如き風潮さへ生じたり。
斯る風潮を訓致するに至りたるに付、相当理由の存することは之を認めざるを得ざるも、不軌の行動は究極に於て国の安全名誉を保全し、国民の幸福を増進するの所以に非ざることは歴史の実証する所なり。
(註) 一般に構成合理遵法の行動を排し、力を以て事を制せんとするの風潮の生じたる源由に付ては茲に述べず。(P45-P46)
戦争法規軽視の風潮も、右一般風潮に誘はれたることは疑なき所なるも、最大、直接の原因は世界大戦に於ける英、独国等の執りたる措置に在りと思はる。
加之交戦国が互に各自の行動を弁護せんとする念慮に駆られ、対手国の行動を過大に宣伝したるに依り、世人をして実際以上に国際法侵犯の事を深刻に印象せしむるに至れる節あり。
実際大戦中交戦国の執りたる措置は、極端に走り従来の国際法規慣例に反すること多かりしは事実なるも、此の一事を以て直に国際法消滅せり、又は国際法は無価値のものにして将来の戦争に於ても然るべしと、推断するは穏当に非ず。
現に、大戦中も交戦国は国際法規慣例に反すと思はるる措置を執る場合には、必ず相当の理由を附して正規の方法に依り難き旨を弁明し、決して国際法規慣例を無視するものに非ざることを示せり。
(以下略)
(ロ)帝国は、日清戦争以降数次の戦争に於て、無比の戦果を収めたるが、其の戦争に従事するや、常に正道に遵ひ国際法規慣例を尊重し、嘗て犯則の挙に出でたることなし。(P47)
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