| 梶谷健郎日記 |
| 梶谷健郎日記 ◇ 十二月九日 晴 午前七時起床、七、八名の避難民を捕へ火をたきてあたる。兵、吉澄随聖クリークに落ち服をぬぎ温む。霜降りて寒し。 八時出発横山橋に至り、村医の家にて顔を洗ひ朝食をとる。珍らしき饅頭等多数持ち来る。珍らしくも金を使用して物品を買ひおれり。缶入五十本のタバコを呉れる。厚く礼を述べ良民保護の日本旗及腕章等を書き、鈴木部隊梶谷大尉として判を押し、裕々と引上げる。 正午ころ東■村附近にて道を尋ねんとせしが、皆逃走して誰も居らず。折から水田中、膝まで没して逃走中の支那女を発見。トンヤンピン■■■■ニーライライと呼べど振り反りつつも尚逃走せるにより、距離三百メートルにして一発射てばヨロヨロと水中に倒れ、そのまま再び起たず遂に死せり。 皇軍の作戦上亦止むなしとするも、哀れと言ふも愚なり。 午后二時頃、右堰村附近にて部落に入り、将校室当番にもとクーニャンを発見し、舟に乗せんとせしが嫌がり大声にて泣き、誤りて河中に落ち、再び上げ舟に乗せ途中にて哀れになり逃走せしむ。 陳村に午后一時十五分着、江陰二時、揚子江近きため潮の増減急なり。充分に水路の偵察を終り午后六時三十分、無事無錫に帰着、直ちに要図を作製し隊長安達少佐に報告す。橋下不通の立板は適当なる処置なりと賞詞を賜はる。 軍は有利に展開し、陸軍の一部は既に南京を占領せりとの情報あり。帰隊するや支部は全く整ひ、事務室も自分等の室も完全に出来居れり。(P434) （『南京戦史資料集�供� |
| 梶谷健郎日記 ◇ 十二月十日 晴 本日より本格的支部の任務に遇進せんと隊長の訓示あり。衛兵所も設置され倉治少尉と共に事務室にて計画工務の書類作製す。 故郷大阪より内藤氏、兄上、吉田清一氏、家内より手紙来る。 明日は部隊長殿来られる由、戦争は相当長びく由なり。部隊給与は戦地としては充分なり。寝具良好なり。(P434) （『南京戦史資料集�供� |
| 梶谷健郎日記 ◇ 十二月十一日 晴 午前午后共、部隊長殿の来着を待つ為め清潔整頓に努力す。倉治少尉以下四名、江陰附近の諸隊と連絡の為め出発す。本日の命令にて明十二日いよいよ待望の南京に先進する事となれり。本日の手紙にて無錫にありと報告した事が残念であった。 鈴木部隊の主力と合して出発す。敵の首都に入る、何ぞ痛快なる。誠に男児の本懐と言ふべし。(P434) （『南京戦史資料集�供� |
| 梶谷健郎日記 ◇ 十二月十二日 晴 母の命日 午前十一時自動車の都合つき、安達少佐、自分、原田上等兵外連転手共三名、午后二時十五分、三七年自動車にて無錫を発し、江陰に向ふ。全道路石畳にして午后三時三十分江陰着、直ちに道を左にとり常州に向ひ金壇に向ふか、或は直接丹陽に向はんかと。 近道を選び直接丹陽に向ふに決し、道路を右にとり進む事約五里、鉄道線路を踏切りて右に出（ママ）ず、進む事二里にして道の誤れるを発見し、鉄道踏切まで引返しクリークに沿ひ西進す。(P434-P435) 途中にて日没し道極めて悪く、歩兵の夜行軍に会ひ自動車意の如く進まず。悪路又悪路、ある時はクリークに入らんとし、或る時は破損せる橋に飛び入らんとし、苦心又苦心、先頭に立ち道案内をなしつつ午后九時三十分丹陽に着す。 清自動車部隊に一泊を依頼し、明朝ガソリンを補給し南京に向ふ予定なりしが、南京はまだ陥落せず。十五日入城式の由にて我々も意外の感あり。途中句陽〔容〕 にて二、三日休止するにあらざれば前進するを得ず。 午后十時五十分眠る。天気は良好にして温かし。安達少佐は別室にて我々五名は一室にて寝る。(P435) （『南京戦史資料集�供� |
| 梶谷健郎日記 ◇ 十二月十三日 晴 丹陽午前九時発。 ガソリン及びオイルを注油し、一路南京街道を前進す。午后一時湯水鎮を通過、三時南京手前二里の麒麟門站を左に折れ、二里の地点にて一泊に決す。 通過せる句陽〔容〕の街も被害亦甚し。飛行場は最新式のものにて実に完備せられあり、途中物凄く橋梁の破壊されあるを下流より下車して渡ること四ケ所あり、その他道路は良好なり。(P435) （『南京戦史資料集�供� |
| 梶谷健郎日記 ◇ 十二月十四日 晴 南京入城の日。 午前十時出発、風を引き頭重し。 麟麟門地に引返し更に軍司令部の位置湯水鎮に着き、連絡の上昼食後一路南京に入城す。 時に正午、城内の残兵は未だ相当あり、北部の碼頭には行けず、鈴木部隊長も来られた。 約二千名の敗残兵は武装解除をされ城内に連行さる。感激の南京に遂に自身入城をなす。(P435) （『南京戦史資料集�供� |
| 梶谷健郎日記 ◇ 十二月十五日 晴 昨日軍司令部は敗残兵の射撃を受けた由なるも、之を直ちに撃退す。支那の巡警察十八名使用す。 午前午后共附近の敗残兵を海軍と共に掃トウす。十数名を射殺せり。負傷せるものも多数あり、之等を一ケ所に集合せしむ。 駆逐艦海風は一番乗にして他七隻入港せり。 気分重く風治らず、夜は歩哨を立て警戒す。(P435) （『南京戦史資料集�供� |
| 梶谷健郎日記 ◇ 十二月十六日 晴 午前二時頃機関銃の音盛んに聞ゆ。敗残兵約二千名は射殺されたり。揚子江に面する下関に於て行はる。 午前中部隊長、少佐と共に港内巡視を行ふ。二番桟橋にて約七名の敗残兵を発見、之を射殺す。十五歳位の子供も居れり。死体は無数にありて名状すべからざるものあり。常熟より後続部隊乗る。 気分益々悪し、されど命を的の戦場なり。(P435) （『南京戦史資料集�供� |
| 梶谷健郎日記 ◇ 十二月十七日 晴 〔欄外〕 南京入場式に参列の光栄に浴す 午前一時頃より約一時間に亘りて敗残兵二千名の射殺あり、親しく之を見る。誠に此の世の地獄にして月は晄々と照り物凄き限りなり。十名ほど逃走せり。 午前九時三十分発にて城門に於ける入城式に参列す。戦闘に参加せる部隊の1／3にして我等も光栄に浴す。松井司令官以下二百名馬上入城す。午后六時遂に寝る。田代、軽部共に看護に当り感謝の外なし。(P435-P436) （『南京戦史資料集�供� |
| 梶谷健郎日記 ◇ 十二月十八日 曇 気分精良好にして午后起る。寒気は相当進行せり。御船伍長無錫より来る。 昨日より花園飯店の宿舎に移る。本部は桟橋前にして南京碇泊場の看板挙げあり。 無線ニュースによれば本日御前会議ありて、南京占領後の国策方針の決定ある筈。 午后気分良好の為め外出したるも又悪化の模様なれば早く寝る。 本日夜、本部衛兵所前にて射撃事件あり、之を取調べ銃殺の予定の所、先方の部隊長に引渡す。(P436) （『南京戦史資料集�供� |
| 梶谷健郎日記 ◇ 十二月十九日 晴 今朝来南京に本格的冬来り益々寒気迫る。 午前中より作業を始む。汽船続々投錨し、揚搭は盛んに活動せり。碼頭附近の掃除も大半整理せらる。 自転車にて城内に行く。小磯軍曹の腹痛は良好にて本日起てり。津倉、泉原来らず。 敗残兵射撃の銃声は漸く止みて、混乱せる各所も各員の努力に依り大方清潔になりつつあり、毎日多忙なり。(P436) （『南京戦史資料集�供� |
| 梶谷健郎日記 ◇ 十二月二十日 晴 午前午后、中山碼頭及下関碼頭の整理をなす。各所に立看板等標示す。 対岸に渡りて原田伍長と連絡し、久し振りにて入浴す。揚子江の水にして濁れたるも、気持ち良くサッパリしたり。各人の散髪を行ふ。近来可なり寒く花園飯店の旅館宿舎はダンロを燃やし温かし。 独逸人電気技師来る。 鈴木部隊も漸く大世帯となり人員は倍化せり。(P436) （『南京戦史資料集�供� |
| 梶谷健郎日記 ◇ 十二月二十一日 曇 午前浦口に至り立看板用材を徴発す。第十三師団の各隊は目下続々渡河前進中なり。 軍艦安宅を始め七隻入港せり。揚搭は依然最多忙裡に進めつつあり、正規兵三百名新に配属され揚搭に使役中なり。安達少佐揚搭掛兼務にして多忙を極めらる。 夕食はスキヤキ行ふ。久し振りの酒にて酔相当に廻る。夜も可成り冷気迫る。 故郷への通信を発す。(P436) （『南京戦史資料集�供� |
| 梶谷健郎日記 ◇ 十二月二十二日 午前六時は相当暗く七時三十分頃にあらざれば明るくならず。 午前浦口に渡り苦力五名を以て看板用木材を運搬せしむ。下関各道路は使役兵によって清潔にされ敵死体は揚子江に投ず。 今日も神通丸、春泰丸の揚陸を実施され午后五時終る。畑中部隊の下士官談によれば出口軍曹は滸浦鎮にある由なり。(P436) （『南京戦史資料集�供� |
| 梶谷健郎日記 ◇ 十二月二十三日 雨 〔欄外〕広田少佐に面会す。 午前八時自動車の便にて十六師団司令部即ち中島部隊の副官たる騎四出身広田米蔵少佐に面会す。宿舎は中央飯店にして大なり。久し振りの挨拶をなし約一時間会談の後辞す。 約一ヶ月半に亙る晴天も今朝来雨と変ず。入港の汽船なし。蕪湖に出張所の必要ある由、上流二十里なり。午后浦口に渡り徴発に任ず。(P436) （『南京戦史資料集�供� |
| 梶谷健郎日記 ◇ 十二月二十四日 晴 〔欄外〕坂井貞蔵二等兵負傷す。 午前中岩田隊使役兵十五名を指揮し、工務掛材料置場設置中、暖をとるためドンド中、小銃弾爆発し右脚上部に命中、出血相当あり、直ちに医務室にて応急手当の上、野戦病院に送る。 午后浦口に至りロープシートの徴発をなす。昨日の雨晴れたれど暴風吹き荒れ揚子江上波高し。忠勇一樽ありて夕食最も楽し。(P437) （『南京戦史資料集�供� |
| 梶谷健郎日記 ◇ 十二月二十五日 晴 〔欄外〕大正天皇祭（騎四時代鶴田准尉来訪さる） 朝来寒気殊に甚しきも快晴なり。正午頃常熟より太田少佐外来る。津倉、泉原来り久し振りにて歓談す。夕食はスキヤキを実施せり。 正午より自動車にて中山陵、国民政府等四時間に亙り見学す。下中軍曹外四名は無湖に出張を命ぜられ、常熟より来りたるまま直ちに出発す。我々はいよいよ南京にて新年を迎ふる事となれり。目出度し。(P437) （『南京戦史資料集�供� |
| 梶谷健郎日記 ◇ 十二月二十六日 晴 昨夜計理室と揚搭室と拳銃の件に原因し大喧嘩あり。 午后死体清掃の為め苦力四十名を指揮し悪臭の中を片附く。約一千個に及べり。目を明けて見る能はず、誠に今世の生地獄と云ふベLきなり。 午后五時攻城砲兵廠の鶴田与吉准尉に酒一升、カモ若干を持参し感謝さる。夜八時命令にて揚搭掛を命ぜらる。現場監督も亦愉快ならん。 〔欄外〕 （揚搭掛を命ぜらる） 〔註〕十二月二十七日記載なし。(P437) （『南京戦史資料集�供� |
| 梶谷健郎日記 ◇ 十二月二十八日 雨 揚搭掛としての勤務益々効程を発揮し雨中衣糧廠の浦口運搬及住吉丸の揚陸を実施す。吉岡少尉、梶谷軍曹、古川伍長、福田伍長、石津伍長は第三班にして、未だ意気投合せざるも将来大いに奮闘せんとす。 第十三師団は南京より西進し三十里以上前進せり。 午后五時より雨及雪となり相当寒し。正月は目前に迫れり。(P437) （『南京戦史資料集�供� |
| 梶谷健郎日記 ◇ 十二月二十九日 雪 〔欄外〕 （送金す） 昨日夜来の雨は雪と化し、今朝は三寸積れり。風寒く揚搭も困難を極む。 自分は衣樟廠の輸送をなす。午后野戦郵便局より自宅宛金六十円直接送金す。可成り寒し。 今日東京日日新聞紙の田中光武氏に浦口にて二枚写真の撮影を受け、自宅宛に直接送られる由なり。(P437) （『南京戦史資料集�供� |
| 梶谷健郎日記 （『南京戦史資料集�供� |
（２０１５．２．１）
| ＨＯＭＥ |