日米交渉十一月二十六日米側提案
(十一月二十七日来電第一一九二号、第1193号)
合衆国及日本国間協定の基礎概略
第一項 政策に関する相互宣言案
合衆国政府及日本国政府は共に太平洋の平和を欲し其の国策は太平洋地域全般に亙る永続的且広範なる平和を目的とし、両国は右地域に於て何等領土的企図を有せす、他国を脅威し又は隣接国に対し侵略的に武力を行使するの意図なく 又其の国策に於ては相互間及一切の他国政府との間の関係を基礎たる左記根本諸原則を積極的に支持し 且之を実際的に適用すへき旨闡明す
(一)一切の国家の領土保全及主権の不可侵原則
(二)他の諸国の国内問題に対する不関与の原則
(三)通商上の機会及待遇の平等を含む平等原則
(四)紛争の防止及平和的解決竝に平和的方法及手続に依る国際情勢改善の為め国際協力及国際調停遵拠の原則
日本国政府及合衆国政府は慢性的政治不安定の根絶、頻繁なる経済的崩壊の防止及平和の基礎設定の為め相互間竝に他国家及他国民との間の経済関係に於て左記諸原則を積極的に指示し且実際的に適用すへきことに合意せり
(一)国際通商関係に於ける無差別待遇の原則
(二)国際的経済協力及過度の通商制限に現はれたる極端なる国家主義撤廃の原則
(三)一切の国家に依る無差別的なる原料物資獲得の原則
(四)国際的商品協定の運用に関し消費国家及民衆の利益の充分なる保護の原則
(五)一切の国家の主要企業及連続的発展に資し且一切の国家の福祉に合致する貿易手続に依る支払を許容せしむるか如き国際金融機構及取極樹立の原則
第二項 合衆国政府及日本国政府の採るへき措置
合衆国政府及日本国政府は左の如き措置を採ることを提案す
一、合衆国政府及日本国政府は英帝国支那日本国和蘭蘇連邦泰国及合衆国間多辺的不可侵条約の締結に努むへし
二、当国政府は米、英、支、日、蘭及泰政府間に各国政府が仏領印度支那の領土主権を尊重し且印度支那の領土保全に対する脅威発生するか如き場合斯る脅威に対処するに必要且適当なりと看做さるへき措置を講するの目的を以て即時協議する旨誓約すへき協定の締結に努むへし
斯る協定又は協定締結国たる各国政府か印度支那との貿易若は経済関係に於て特恵的待遇を求め又は之を受けさるへく且各締結国の為め仏領印度支那との貿易及通商に於ける平等待遇を確保するか為め尽力すへき旨規定すへきものとす(P563-P564)
三、日本国政府は支那及印度支那より一切の陸、海、空軍兵力及警察力を撤収すへし
四、合衆国政府及日本国政府は臨時に首都を重慶に置ける中華民国国民政府以外の支那に於ける如何なる政府若しくは政権をも軍事的、経済的に支持せさるへし
五、両国政府は外国租界及居留地内及之に関連せる諸権益竝に一九〇一年の団匪事件議定書に依る諸権利をも含む支那に在る一切の治外法権を抛棄すへし
両国政府は外国租界及居留地に於ける諸権利竝に一九〇一年の団匪事件議定書による諸権利を含む支那に於ける治外法権抛棄方に付英国政府及其他の諸政府の同意を取付くへく努力すへし
六、合衆国政府及日本国政府は互恵的最恵国待遇及通商障壁の低減竝に生糸を自由品目として据置かんとする米側企図に基き合衆国及日本国間に通商協定通商協定締結の為め協議を開始すへし
七、合衆国政府及日本国政府は夫々合衆国に在る日本資金及日本国にある米国資金に対する凍結措置を撤廃すへし
八、両国政府は円弗為替の安定に関する案に付協定し右目的の為め適当なる資金の割当は半額を日本国より半額を合衆国より供与せらるへきことに同意すへし
九、両国政府は其の何れかの一方が第三国と締結しおる如何なる協定も同国に依り本協定の根本目的即ち太平洋地域全般の平和確立保持に矛盾するか如く解釈せられさるへきことを同意すへし
一〇、両国政府は他国政府をして本協定に規定せる基本的なる政治的経済的原則を遵守し且之を実際的に適用せしむる為め其の勢力を行使すへし(P564)
(『日本外交年表竝主要文書 1840-1945 下』所収) |