篠田治策『北支事変と陸戦法規』より
我国の国内法に於いては事変と戦争を区別せざる場合多く、例へば出征軍人の給与、恩給年限の加算、叙勲に関する法規等総べて事変と戦争を同一に取扱ふも、国際法上にては事変と戦争は大なる差別がある。
即ち現在の事変が変じて戦争となれば、日支両国は所謂交戦国となり、共に戦争法規を遵奉する義務を生じ、同時に中立国に対しても交戦国としての権利と義務を生じ、中立国は皆交戦国に対して中立義務を負担するに至るのである。
語を換へて言へば事の事変たる間は必ずしも国際法規に拘泥するの必要なきも、一旦戦争となれば戦場に於いて総べて国際法規を遵守すべき義務を生ずるのである。
然れども事変中と雖も正義人道に立脚して行動し、敵兵に対し残虐なる取扱を為し、良民に対し無益の戦禍を蒙らしむるが如きは努めて之れを避くべきは言を待たずである。
此の点に関しては、皇軍は我国教育の普及と伝統的武士道精神により、毎に正々堂々たる行為を以て範を世界に示しつつあるは欣快である。
嘗て済南事変の際邦人に対する残虐視るに忍びざる殺戮行為、今回の通州に於ける邦人虐殺行為等天人共に許さざる野蛮行為に対しても、敢て報復の挙に出ずることなく、飽くまで正々堂々唯だ敵の戦闘力を挫折するに止めたのみである。(P48-P49)
故に皇軍は戦場に於いて事変と戦争を区別するの必要は無い。何れの場合にも武士道的精神に則り行動するが故に、戦規違反の問題を生ずることは殆んど無いのである。(P49)
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