石射猪太郎氏の証言(1) |
石射猪太郎氏は、近衛内閣の外務省東亜局長として、軍部の日中戦争拡大方針に反対したことで知られています。「南京事件」については、次の記述を残しています。
この「石射証言」を、氏の「人格攻撃」を行うことにより否定し去ろうとする記述が存在します。田中正明氏「南京事件の総括」です。
まず、「事実の誤り」から指摘しておきましょう。田中氏は、どうやら「極東軍事裁判」における石射証言を読んでいないようです。 まず氏は、東亜局がリアルタイムで「国際委員会の抗議」を受けとっていた、という誤解をしているようです。「毎回続々と送られてくる日本軍の暴行に対する国際委員会の抗議」という表現から、そのことが読み取れます。 実際は、こうでした。
さらに決定的な「誤解」は、どうやら田中氏は、石射氏が国際委員会の「でたらめ抗議を信用し」て、「アトロシテーズ」の存在を認識した、と思い込んでいることです。「宣誓口供書」から引用しましょう。
石射氏は、「国際安全委員会文書」を受け取る以前に、「南京総領事代理(福井淳氏)」から「本省への最初の現地報告」によって、既に「アトロシテーズ」の存在を認識していました。そして軍も、「国際安全委員会文書」による抗議以前に、「既に現地軍に厳重に云つてやつ」ています。 従って、石射氏が「国際委員会の抗議」のみを材料に「驚き」を感じたかのように書く田中氏の文章は、誤りです。 さらに言えば、田中氏は、石射氏が当時の日本において特異な見解を示していたかのような「印象操作」を行っていますが、実際には、「南京アトロシテーズ」などの陸軍の不軍紀ぶりを憂慮する見方は、石射氏のみのものではありませんでした。「資料:日本人の著作に見る「南京事件」」にいくつかの資料を掲載しておきましたので、ご覧下さい。 2004.10.7追記 上記「資料:日本軍の著作に見る「南京事件」」の収録外のものとして、外務省東亜局第一課長(当時)、上村伸一氏の記述を、ここに紹介します。
(続く)
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