一 中日両国は不可分の関係にあり
中日両国は元来兄弟の間柄である。民族的種別においてまた文化上においても浅からぬ関係にある。惰唐の昔からわが哲学、文学、宗教、美術、文藝など総て貴国に摂取されてをり、天平(註 南北朝東覿の孝静帝の年号)以降の文化は貴国特有の歴史における美術品を見ればその吸収されたことが明かに証明されてゐる。諸君の現在の生活方式あるひは器具の名称にも文化の母国の面影が少からす保存されてゐるのである。
近世における科学の発展により、交通上三ケ月を要した難行程は一日で達する如くに短縮された。それゆえ密接な関係を有する両国は一層親睦を加へ、共存共栄を図り得るに至った。
わが中華民国は、民国十七年の統一以来、総理の三民主義を奉ずることを以て建囲の基準とした。すなはち独立平等の原則を以て、各友邦と世界の福祉を謀るにある。貴国に対しては単に兄弟とか手足の関係に止まることなく、一層親愛の情を加へたことは諸君の知るところである。
これはわが中国の国民性が数千年聖哲の教化を受け、平和を熱愛し、隣国の徳を尊重することは「民はわが同胞である」とかあるひは「四海の間は皆兄弟なり」の思想に基いてゐるからである。いはんや貴国とわが国との関係は上述のやうに密接なのである。
(同書 P10-P11)
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