731部隊 (15) |
「生体解剖」はあったのか? (2)証言などに見る「生体解剖」 |
ここまでの一連の記事の中で、「731部隊の人体実験」の存在に疑う余地がないことを見てきました。こちらでは、もう一つ上のレベルの「残虐行為」である、「生体解剖」を取り上げます。 ※以下多数の「証言」を紹介しますが、「証言」が記憶に頼ったものである以上、細部には不正確な部分が出てくることは免れません。私が、それぞれの証言内容が100%正しい、と考えているわけではないことは、念の為に書き添えておきます。あるいは、中には「虚偽証言」が存在する可能性も、完全は否定しきれません(各証言はリアルで詳細なものであり、虚偽である可能性はほとんどないとは思われますが)。
731部隊の二代目部隊長を務めた北野政次は、1944年、中国東北部の奇病「流行性出血熱」につき、「サル」を使った動物実験の論文を発表しました。
常石敬一氏は、これが実は「動物実験」ではなく、紛れもない「人体実験」であることを、北野自身の別論文から論理的に喝破しました。 その後北野自身も、常石氏のインタビューに答え、これが実は「人体実験」であったことを認めざるを得ませんでした。
※詳しくは、「人体実験、これだけの根拠 (3)部隊関係者の論文群」中の北野政次他「流行性出血熱の病原体の決定」 をご覧ください。 さて問題は、この論文が紛れもない「生体解剖」の記録であることです。常石氏による引用です。
「体温が全く平熱に復し」たのですから、この時点では実験体は間違いなく生きています。それに対して「部検(ぼうけん)」を行ったのですから、明らかにこれは「生体解剖」です。
「論文」から「生体解剖」の事実が明らかになった、珍しい事例である、と言えるでしょう。
「流行性出血熱」のケースでも見られたように、「病変した臓器の様子を生きているうちに調べる」のが、「生体解剖」の一つのパターンです。 「731部隊」は、「細菌戦」でペスト菌などを使用しました。「生体解剖」でも、ペスト菌などの効果を調べる事例がいくつか存在します。 「細菌戦」の主役となった「ペスト菌」の効果につき、柄沢班・篠塚良雄氏が、「生体解剖」の様子を詳しく証言しています。
同様の証言を、高橋班(ペスト担当)の鎌田信雄氏も行っています。
西野留美子『七三一部隊 歴史は継承されないのか』に、「ペスト班所属」の匿名証言が紹介されています。 所属及び証言内容の一致から、これもおそらく鎌田信雄氏の証言であろうと推察されますが、上の証言にはないデータも存在しますので、併せて紹介していおきます。
もう一つ、TBSのテレビディレクター・吉永春子氏の取材から、「レントゲン班の班長」の証言です。 なお、文中の「コレラ」は、「ペスト」の間違いでしょう。
中国側の記録には、「ペスト流行地における日本軍の生体解剖」が登場します。 仮にも住民を「宣撫」する立場である日本側が、中国の一般住民に対してそこまでのことをするのか。 私も当初、そういう疑問を持ちましたが、調べると、「パラチフス菌」の話ではありますが、日本側にもそれに近い記録が存在します。全くありえない話ではなさそうです。
さらに「残虐さ」を増すケースとして、「医者の手術の練習としての生体解剖」、いわゆる「手術演習」があります。 「731部隊」では、どうやらこのような「手術演習」はほとんど行われなかった模様ですが、この種の「演習」は、中国大陸などでかなり広く行われていたようです。 湯浅謙氏の証言を紹介します。 ※湯浅謙氏は、中国山西省のロ(さんずいに路)安陸軍病院付きの軍医でした。ここで何件かの「手術演習」に携わりましたが、戦後、犠牲者の母親から訴えられ、「戦犯」となりました。戦後、吉開那津子氏が湯浅氏からの「聞き取り」をまとめた『消せない記憶』を著しています。
「手術演習」は、「軍」の命令で行われていた、とのことです。 さて、湯浅氏はどんな「生体解剖」を体験したのか。氏の証言を続けます。
医者の「手術演習」として、腕を切断し、さらに腹部・気管を切開する。虫の息となったこの被験者は、手術終了後、死亡しています。詳細は省略しますが、他にも湯浅氏は、拳銃で腹を撃ち、その弾丸を摘出する手術演習を経験しています。 さらに戦争末期になると、手術演習の回数を増やすように、との命令が方面軍から届いた、とのことです。
湯浅氏は、この命令に応えて、年六回の「手術演習」計画を立てました。ただし実施できたのは、そのうち三回のみだった、とのことです。 さらにビルマ戦線では、軍医・石田新作氏が、「生体解剖」について証言しています。一軍医中尉の個人プレーであった、とのことですが、こちらは「手術演習」ですらなく、「麻酔もかけずに睾丸摘出などで激痛を与え、「悶死」に至る過程を見る」という、残虐極まりないものです。
あまりに生々しいので全文引用は避けますが、この後、被検者は、開腹されて腸を取り出され、さらに脾臓、肝臓、胃を摘出されました。(同書P180-P182) 上の事例と同様、「人体の中にある臓器を取り出して見てみる」ことを目的としたとか思えない事例も、いくつか報告されています。「南満州某独立守備隊」のケースです。
「731部隊」についても、これに近い証言があります。臨床班・石橋直方氏の証言です。
一応は死亡してからの解剖ではありますが、解剖するために首を切り落としたわけであり、「生体解剖」に近いもの、と言えます。 なぜ医学研究者は、このような「生体解剖」を行うのか。 元731部隊秋元班班長・秋元寿恵夫氏は、同じ医者としての立場から、こんな発言を行っています。
同様の発言は、あちこちの資料で目にすることができます。「生体解剖」は、「モラル」の問題さえ考えなければ、医学研究者にとっては大変魅力的なものであったのかもしれません。
ただしこのような「生体解剖」を知る者は、部隊員の中でも、一部に限られていたようです。
写真班員T:Kも、「生体実験」の事実は承知していたものの、「生体解剖」までは知らなかった、と証言しています。
しかし彼らにしても、知らないところで「生体解剖」が行われたことまで否定するものではありません。私の知る限り、「生体解剖」の存在を明確に否定する元隊員は、佐々木義孝氏のみです。
『世界日報』紙によれば、佐々木義孝は、「増田知貞、中留金蔵に次ぐ石井部隊長の腹心」として紹介されています。ただし私の印象では、他の資料で佐々木の名を見ることはほとんどなく、「大物感」はあまりありません。 ※詳しくは、「人体実験、これだけの根拠 (5)「擁護」側からの証言」をご覧ください。 佐々木氏のコメントは簡単です。これまでの証言群を覆すだけの説明としては、不十分と言わざるをえません。 またインタビュー全体を見ても、佐々木氏は、「マルタの犠牲者は週にせいぜい二人くらい」「細菌戦の効果はゼロ」「細菌戦が行われたのは1941年以降で、1940年に行われたというのは間違い」といった、明らかに事実と相違する発言を繰り返しています。 ※なお、本インタビューが掲載された『世界日報』は、統一教会=国際勝共連合系の、極右的なメディアです。 いずれにしても、この証言のみをもって、「生体解剖」の存在をトータルに否定することは困難でしょう。 (2020.5.2)
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