| 731部隊 ネットで見かけたトンデモ議論(4) | |
| 「きい弾(マスタードガス)」の実験 |
1984年、「きい弾射撃に因る皮膚傷害並一般臨床的症状観察」「破傷風毒素並芽胞接種時に於ける筋『クロナキシー』に就て」という、「731」関係の重要資料が、神田の古本屋から発見されました。 発見したのは、当時大学院生であった、児島敏郎氏。児島氏から連絡を受けた慶応大学・松村高夫教授は、直ちにこの資料の「買い取り」を決断しました。 買取価格は70万円。そしてその後、この資料は、「731」の人体実験を示す貴重な資料として、名を残すことになりました。(内容の紹介はこちら。また、原文(ただし一部のみ)の書き写しはこちら) さて、掲示板でこの資料の提示を受けた、deliciousicecoffee氏の反応です。
いきなり、ほとんどの思い付きで資料の「出自」を問題にしました。 いや別に、「疑問」を持つのも、「課題」を設定するのも自由です。掲示板で相手にそれを尋ねてみるのも自由です。まだ「情報蒐集」の段階であれば、このような発言も理解できないことはありません。 しかし、ブログなりホームページに掲載して、半永久的に「形」に残すとなると、「重み」が違ってきます。 少なくとも私は、本サイトの上では、手元資料を確認する、「日本の古本屋」なり国会図書館なりで不足している情報を集める、などして、その時点で入手可能な情報はすべて網羅した上で、発言を行います。それが「読者に対する責任」というものでしょう。 わざわざ自分のブログに載せるのであれば、資料の出自くらい、自分で「資料集」を見て確認しろよ……と言いたくなる、初歩的な「疑問と課題」です。 本資料の出自については、「人体実験、これだけの根拠(3)部隊関係者の論文群付記 論文発見の経緯」にまとめてあります。 要するに、 �〇駑舛蓮�井上義弘元中佐が自宅で段ボールに入れて保管していた。 ��井上元中佐の死後、遺族はその「資料価値」には全く気が付かず、段ボールごと「チリ紙交換」に出してしまった。 ��その資料は、神田の古本屋に持ち込まれた。 �い燭泙燭淇静弔鯤發い討い紳膤惘\犬�発見し、慶応大学はそれを70万円で買い取った。 ということです。 さらに毎日新聞は、この資料の作成者として名が記載されている池田苗夫氏に追跡取材を行っています。 氏は、「きい」実験への関与のみは一応否定してみせましたが、他については「破傷風の実験は上官の指導でやったこと。他の論文はすべて私のもの」と、自分の関与を明確に認めています。 さて、資料の出自はすっかり「クリア」になりました。 deliciousicecoffee氏、続けて、全くの第三者の投稿を元に、この資料の信頼性を貶める努力を続けます。
自ら「素人」を名乗る投稿者の、自分では資料を当たりもしないで適当に「疑問」を並べただけの文章をわざわざ取り上げて、これを「否定の根拠」にしてしまう氏の神経には、いささか呆れました。 せめて自分で資料を読んで「裏」をとるくらいのことはしてほしいものです。 deliciousicecoffee氏に利用された投稿者には気の毒なのですが(あえて名を伏せました)、一応、「疑問」にお答えすることにしましょう。 まず、こちらの「疑問」です。
私も最初、この文章を鵜呑みにしてしまい、「どうして眼部に関する記述がないのか」とあれこれ悩んでいました(^^; ところが実際に確認すると……
ここではサンプルとして2名分のみ取り上げましたが、実際には、各被験者の記録において、「眼部」の症状についての記述は、必ずと言っていいほど登場します。 結局、この投稿者がデマを振り撒いただけだ、ということがわかりました。 もう一つ、投稿者は、こんなことも書いています。
いや、そこまで素朴な「疑問」をぶつけられても、ちょっと困るのですが……。ひょっとしたらこの投稿者、そんな大規模実験を行う必要などないから、この実験はでっち上げである、とでも言いたいのでしょうか。 実験の概要を、松村氏の「まとめ」で確認しましょう。
要するに、なるべく実戦に近い状況を作り出し、どれだけの量のイペリット弾を使うとどれだけの「効果」があるのか、を調べています。当然、「閉鎖された実験室」でできるような実験ではありません。 当然のことながら、この実験結果は、「どのような条件下で何発発射すれば狙った作戦効果を挙げることができるか」というデータとして活用されたものと思われます。 少なくとも実験者たちは、「そこまでする必要があった」と考えたからこそ、このような大規模実験を企画したのでしょう。 さて、こちらもまた、「素朴な疑問」です。
そもそもこの投稿者、「731部隊」の性格がわかっていません。いくつか、概説書から引用しましょう。
別に「731部隊」は、「生物兵器の開発」ばかりをやっていたわけではありません。一応は「医学の進歩に役立つ」方面の研究も、多数行っていたことは、よく知られています。本サイトで取り上げた中で言えば、「流行性出血熱」「凍傷」などが、それに該当します。 そのひとつが「破傷風の研究」であった、というだけの話です。 さて、以上で投稿者の「疑問」はすっかり解決したと思います。以下は、余談です。
ほとんど「常識」のレベルですが、「731部隊」に送り込まれた「マルタ」達は、基本的には、正式の裁判で死刑判決を受けた「死刑囚」ではありません。何らかの疑いで憲兵隊に捕まり、そのまま釈放されずに送り込まれた者が大半でした。 当時の用語では「特移扱」と呼ばれました。それに関する規定も残っています。
「謀略員(スパイ)」「思想犯人」が中心ですが、その罪状については「死刑又は無期と予想されるもの」(「無期」は「死刑囚」ではありません。念のため)から、「罪状軽しと雖も釈放するを不可とするもの」まで、かなり幅広くなっています。 「其の生存が軍乃至国家に著しく不利なるもの」などという「基準」を見ると、要は、憲兵隊の胸先三寸で「731行き」が選ばれている、といっても過言ではないでしょう。 例えば、親日系新聞の社説への反論を投稿しようとした会社員が、「特移扱」として731部隊に送られた、との証言があります。
どのような内容かわかりませんが、「本を出した」だけで「特移扱」となった女マルタもいた、といいます。
これだけでも十分にひどい話なのですが、三尾氏はさらに、大規模な毒ガス実験を行う場合には「特移扱」だけでは実験体が足りず、何の犯罪も犯していない「浮浪者」までも狩り集めた、と語っています。
正式の裁判で「死刑」判決を受けた死刑囚を「実験」に使っていた、という投稿者のイメージは、明らかな誤りです。 ※deliciousicecoffee氏ブログの次記事は『フェル・レポートの怪・中川八洋筑波大学教授・『悪魔の飽食』は旧ソ連のプロパガンダだった』 ですが、これについては 既に「中川八洋氏の論稿をめぐって(1)」「中川八洋氏の論稿をめぐって(2) 」で詳細な批判を行っていますので、ここでは省略します。 (2017.7.23)
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