| 731部隊 ネットで見かけたトンデモ議論(11) |
| 2007年、米国立公文書館の文書公開 |
「731部隊」に関し、twitterではしばしば次のような内容の「つぶやき」が流れます。おそらくこれが、ネットでは最もポピュラーな「否定論」でしょう。
結論から書けば、これは全くのデマです。 「人体実験」を示す決定的なアメリカ側資料として、従来から、「フェル・レポート」「ヒル・レポート」、及びその元となった石井部隊幹部への尋問記録などが知られています。 2007年に行われたこの「10万ページ」の文書公開では、単にそれ以上の新しい資料が出てこなかった、というだけの話であり、これらの資料が否定されたわけでも、「上書き」されたわけでもありません。 言うまでもなく、このような「珍論」は、一般の論壇から聞かれることは全くありません。どうしてネットでこのような「都市伝説」が生じたのか。以下、見ていくことにしましょう。 ※「フェル・レポート」を初めとするアメリカ側資料については、本731部隊シリーズ冒頭の、 「人体実験、これだけの根拠(1) 米国側資料� .侫Д襦Ε譽檗璽�」 「人体実験、これだけの根拠(2) 米国側資料�◆.劵襦Ε譽檗璽函▲瀬哀ΕДな現�」にてまとめました。関心のある方はご覧ください。 この元ネタを追っていくと、どうやらルーツは、「石川久遠」という方の、フェイスブック上の次の文章であるようです。 (ただし石川氏のフェイスブックは非公開設定であり、直接に見ることはできません。ネットでは、「吉田康一郎」という方のシェアで確認することができます))
特に新しい資料がなかった、というだけの話が、なぜか「戦後に言われた事は全て根拠なき捏造であったと証明された」というムチャクチャな話に化けています。 明らかにこの方には、既に公開されている数々の資料についての知識が、全くありません。 さらに遡ると、deliciousicecoffee氏のブログ上の文章がその大元であるようです。 ※deliciousicecoffee氏がどのような人物であるかは、こちらをご覧ください。
時間的順序としてはこちらが先であり、先の石川氏の文章は、これを適当に書き換えただけのものであると思われます。 では、この2007年になって公開された資料とは、一体何なのでしょうか。検索をかけると、2007年当時のサンケイ新聞記事がヒットします。(元記事はすでに消えており、そのコピーだけが残っています)
一見してこの記事は、「731部隊」についてほとんど知識を持たない記者によって書かれたことがわかります。 記者は「新発見資料」が続出したかのような書き方をしていますが、例えば「細菌戦研究の成果を米軍に引き渡したとされる石井中将が、米側に提出する文書を1947年(昭和22年)6月ごろ執筆していたことを裏付ける最高機密文書」、あるいは「47年6月20日付の米軍最高機密文書」というのは、明らかに「フェル・レポート」のことです。 「フェル・レポート」は、1980年代から既に公開されている有名な資料です。記者はどうやら、こんな基礎資料もご存じなかったようです。 また「石井四郎軍医中将を含む731部隊(関東軍防疫給水部)関係者の個別尋問記録」というのは「ヒル・レポート」に付属する尋問記録でしょう。こちらも従来からよく知られている資料です。 さて、プロの研究者はこの「2007年文書公開」をどのように見たか。近藤昭二氏の一文を紹介しましょう。
結局、この「2007年公開資料」の中には、目新しい資料は含まれていなかったようです。研究者の間でも、ほとんど話題にならないままに終わってしまいました。 余談ですが、サンケイ記事では「10万ページ」の「文書内容の大半は731部隊など細菌戦研究に関する内容だ」ということになっていました。実際にはこの文書のメインは「日本の戦争犯罪」であり、「生物戦」の部分はそのごく一部に過ぎなかったようです。 なお近藤昭二氏は、この「2007年文書公開」以前に、『731部隊・細菌戦資料集成(CD−ROM版)』というCD8枚組の厖大な英文資料集を編んでいます(2003年)。
この時点で「731部隊」については多くの英文資料が知られており、その中には「フェル・レポート」などの「人体実験」を実証する資料も含まれていました。 繰り返しますが、「2007年資料公開」では新資料が出なかった、というだけの話です。まだまだ未発見資料が存在するとはいえ、「731部隊」の実態は従来からの資料群だけでかなりの程度明らかになっています。 さて、以上の知識を前提に、deliciousicecoffee氏の文章に戻りましょう。
�△�ら�Δ泙任蓮�記事の「間違い」部分も含めて、一部「改竄」はあるものの、概ねサンケイ記事の内容をなぞります。 しかし氏は、�,鉢Г法¬世蕕�に�◆銑Δ叛姐腓靴覆ぁ�何とも強引な「結論」をもってきてしまいました。 このサンケイ記事をどう読んだら、「米国が持っていた731部隊に関する10万ページの機密文書には、731部隊が人体実験を行ったり細菌戦を行った証拠は全くなく、戦後に言われた事は全て根拠なき捏造であったと証明されたのだ」などという「結論」になるのか。普通の感覚では理解不能でしょう。 なお、deliciousicecoffee氏が「サンケイ記事」が出た時点で書いた文章は、このようなものでした。
氏はどうやら、記事中に「細菌戦実行」の話が出てこないことのみを根拠に、「細菌戦を行った証拠は全くなかった」と発言したようです。さらにこれに、いつのまにか「人体実験」の語が加わり、「アメリカが持っていた731部隊に関する10万ページの機密文書には、731部隊が人体実験を行ったり細菌戦を行った証拠は全くなく」ということになってしまいました。 念のためですが、この公開文書に含まれている「フェル・レポート」は、「人体実験の結果」を詳述しているばかりではなく、一部ではありますが、「細菌戦実行」の話もしっかり登場します。
結局のところ、「10万ページの機密文書」云々の「都市伝説」は、「731」についてあまり知識を持たない一人のネトウヨ氏の「個人的感想」から発生したもの、と断定していいでしょう。 (2016.5.3)
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